腸骨採取による骨盤骨変形で後遺障害等級が認定されたのですが、逸失利益は認められるのでしょうか?

腸骨採取術による骨盤骨変形の後遺障害

 骨欠損部の補填や骨癒合促進の手術のため,腸骨から骨片が採取されることがあります。

 腸骨採取術によって骨盤骨に変形が残存し,「著しい変形を残すもの」に該当する場合,後遺障害12級5号が認定されます。

 「著しい変形を残すもの」とは,裸体になったとき,変形が明らかにわかる程度のものをいい,変形がレントゲン写真によってはじめてわかる程度のものは該当しないとされています。

骨盤骨変形による労働能力の喪失

 骨盤骨変形は,加害者(保険会社)から労働能力喪失が争われやすい後遺障害の一つです。

 この点,片岡武裁判官の講演録「労働能力喪失率の認定について(交通事故による損害賠償の諸問題Ⅲ339頁)」では,骨移植によって骨盤骨に変形が生じた事案において,骨盤骨変形について労働能力喪失を正面から肯定した裁判例は見当たらず,多くの裁判例は骨盤骨の変形自体は労働能力喪失に結びつかないとして労働能力喪失を否定していると指摘されています。

 同講演録で取り上げられている22の裁判例のうち,19の裁判例で労働能力喪失が否定されています。

 京都地判平成7年12月21日自保ジャーナル1153号2頁では,「骨折部位に骨を移植した結果としての骨盤骨の奇形や顔面、右足等の醜状痕は、原告の受ける精神的苦痛は大きいとしても、原告の就労能力自体に特段の影響を与えるものとは認められない」と判断されています。

 一方,3つと数は少ないですが,脊柱変形等他の後遺障害との併合等級が認定された事案において,骨盤骨変形と労働能力喪失との関係について判断すること無く,併合等級通りの労働能力喪失率をそのまま認めた裁判例の存在も挙げられています。(同講演録339頁)。

 仮に骨盤骨変形について労働能力喪失を否定するつもりであれば,骨盤骨変形の後遺障害を抜きにして労働能力喪失率を認定していたと考えられますので,理由が挙げられていないにしても,併合等級通りの労働能力喪失率が認定されている以上,骨盤骨変形についても労働能力喪失を肯定した事例だと考えることができます。

 そのほか,結論は労働能力喪失を否定しながらも,労働能力喪失に対する影響を立証できればそれを肯定する余地があることを認める裁判例もあると指摘されています(同講演録339頁)。

 札幌地判平成13年11月21日自保ジャーナル1441号14頁は,「腸骨関係障害については,原告本人尋問の結果によっても,原告の労働能力に有意の影響があったことは認められず,他に,これを認めるに足りる証拠がない」と判示し,立証による認定の余地を残しています。

 どのような場合に労働能力に対する影響を立証できるかですが,例えば水着モデルなど,骨盤骨の変形が職務遂行の上で明らかになる職業の場合には,骨盤骨変形が労働能力の喪失に結びつくように思われます。

 また,片岡裁判官は,採骨による痛みで労働能力への影響が立証できるなら,14級(神経症状)として捉えて,手術後から1年ないし2年を目安に逸失利益を認めてはどうかと指摘しており,実務上参考になると考えられます(同講演録340頁)

京都地判平成7年12月21日自保ジャーナル1153号2頁


骨折部位に骨を移植した結果としての骨盤骨の奇形や顔面、右足等の醜状痕は、原告の受ける精神的苦痛は大きいとしても、原告の就労能力自体に特段の影響を与えるものとは認められないので、右の点について逸失利益として考慮するのは相当でない。


札幌地判平成13年11月21日自保ジャーナル1441号14頁


原告の後遺障害は,前記第2,2,(4)のとおり,左手関係障害と腸骨関係障害である。そして,腸骨関係障害については,原告本人尋問の結果によっても,原告の労働能力に有意の影響があったことは認められず,他に,これを認めるに足りる証拠がない。


 

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