買替諸費用として、どのような請求ができるのでしょうか?

買替諸費用

 車両が全損となり,買い替える必要がある場合,現実には車両の価格だけでなく,税金(自動車取得税,消費税等)や廃車に要する費用,自動車検査登録手続費用,車庫証明手続費用,納車手数料など,様々な費用を支払わなければなりません。

 これらの費用は,事故がなければ負担する必要のなかったものとして損害と認められます。

 ただし,全損した事故車両について前納していた自動車税や自賠責保険料は,車両を廃車にすると還付されることから損害として認められない等の例外はあります。

 買替諸費用に関する裁判例の判断をまとめると,以下の表のとおりとなります。

損害と認められるもの 損害と認められないもの

買い替え車両の自動車取得税・自動車税環境性能割


  • 自動車取得税は自動車の取得に伴って課税されるものですので,買い替えに伴う損害として認められています(東京地判平成6年10月7日交通事故民事裁判例集27巻5号1388頁)。
  • 自動車取得税が損害となるのは車両価格が50万円以上の場合に限ります。50万円以下の場合,自動車取得税は課税されません。
  • 現実に新たに取得した車両の価格が50万円を超えて自動車取得税が課税されても,事故車と同程度の車両の価格が50万円以下となる場合は損害とは認められません(神戸地判平成18年11月17日交通事故民事裁判例集39巻6号1620頁)。
  • 自動車取得税は2019年10月1日までに購入した車両が対象です。自動車取得税は2019年10月1日に廃止され,新たに自動車税環境性能割(以下,「環境性能割」といいます)が導入されました。環境性能割は取得価額が50万円以下の場合は課税されません。自動車取得税と同様に,現実に新たに取得した車両の取得価額が50万円以上であっても,事故車と同程度の車両の取得価額が50万円以下となる場合は損害とは認められないと考えられます(神戸地判平成18年11月17日交通事故民事裁判例集39巻6号1620頁)。

自賠責保険料


  • 買い替え車両の自賠責保険料は,車両の保持のために必要な費用であって買い替えに伴って生ずる費用ではないとして損害とは認められません(大阪地判平成26年1月21日交通事故民事裁判例集47巻1号68頁)。
  • 事故車両の自賠責保険料の未経過分についても,抹消登録により還付請求が可能であるため,損害として認められません(東京地判平成13年12月26日交通事故民事裁判例集34巻6号1687頁,大阪地判平成26年1月21日交通事故民事裁判例集47巻1号68頁)。

(事故車両の自動車重量税の未経過分)


  • 平成17年(2005年)1月の「使用済自動車の再資源化等に関する法律(自動車リサイクル法)」の施行により,自動車重量税の未経過分も還付の対象となりました(使用済自動車に係る自動車重量税の廃車還付制度)。
  • 民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準(通称「赤い本」)において,「事故車両の自動車重量税の未経過分(「使用済み自動車の再資源化等に関する法律」により適正に解体され,永久抹消登録されて還付された分を除く)」が登録手続関係費の例示として挙げられています。
  • 還付制度導入後,還付制度があることを理由に否定する裁判例(京都地判平成30年5月28日交通事故民事裁判例集51巻3号595頁)もありますが,使用済自動車の再資源化等に関する法律により適正に解体され,永久抹消登録されて還付された分を控除して損害認定する裁判例もあります(大阪地判平成24年11月27日自保ジャーナル1889号64頁)。
  • 道路運送車両法の区分で二輪の軽自動車(125cc超~250cc以下)に該当する車両については新車購入時にのみ重量税が課税されるため,未経過分を計算することができません。
  • 道路運送車両法の区分で第一種原動機付自転車(50cc以下)及び第二種原動機付自転車(50cc超~125cc以下)に該当する車両については重量税は課税されません。

買い替え車両の自動車重量税


  • 中古車を購入可能であったにもかかわらず,新車を購入した場合,新車購入の際に通常課せられる自動車重量税は損害として認められません(名古屋地判平成10年10月2日自保ジャーナル1297号2項)。

リサイクル料金(再資源化等預託金)


  • 車両を再調達するときに,リサイクル費用の支出が必要となるため,損害として認められています(名古屋地判平成21年2月13日交通事故民事裁判例集42巻1号148頁など)

事故車両の軽自動車税の未経過分


  • 自動車税の未経過分が損害として認められないのは,抹消登録により還付請求が可能であるためとされています(東京地判平成13年12月26日交通事故民事裁判例集34巻6号1687頁,大阪地判平成26年1月21日交通事故民事裁判例集47巻1号68頁)。軽自動車税には還付制度がありませんので,未経過分が損害として認められるかが問題となります。
  • 軽自動車税の未経過分を認定した裁判例が見当たらない一方,詳しい理由は挙げられていませんが,東京地判平成30年6月20日交通事故民事裁判例集 51巻3号722頁は,「原告は,軽自動車税400円(年1600円の3か月分)を請求するが,これは本件事故と相当因果関係のある原告の損害とは認めがたい。」と判示して,軽自動車税の未経過分を損害として認めませんでした。
  • 年度の途中で車両を取得した場合,翌年度4月1日所有の時点まで軽自動車税がかからない仕組みのため,年度内に買い替えすれば翌年度まで軽自動車税を支払う必要はありません(自動車税の場合は,買い替え車両を新規登録をした月の翌月から3月までの月割り分が課税されます)。したがって,事故があっても無くても支出が変わらないため,還付制度がなくても,軽自動車税の未経過分は損害として認められないと考えられます。
  • もっとも,事故が原因で軽自動車税が課税される買い替え車両に乗らなくなった場合(事故の後遺症が原因ででバイクに乗らなくなった等)には,未経過分が損害として認められる可能性はあります。

自動車検査登録・車庫証明にかかる法定費用


  • 自動車検査登録・車庫証明の法定費用は,車両を取得する都度支出が必要な費用として,車両の再調達に伴う損害として認められています(東京地判平成14年9月9日交通事故民事裁判例集35巻6号1780頁など)。
  • 軽自動車の場合は車庫証明の申請は不要ですが,地域によって保管場所の届出が必要な場合があり,届出完了時に発行される標章交付の手数料が損害として認められると考えられます。
  • 自動二輪車や原動機付自転車には,車庫証明や保管場所の届出制度はありません。

自動車税(軽自動車は除く)


  • 買い替え車両の自動車税は,車両の保持のために必要な費用であって買い替えに伴って生ずる費用ではないとして損害とは認められません(大阪地判平成26年1月21日交通事故民事裁判例集47巻1号68頁)。
  • 事故車両の自動車税の未経過分についても,抹消登録により還付請求が可能であるため,損害として認められません(東京地判平成13年12月26日交通事故民事裁判例集34巻6号1687頁,大阪地判平成26年1月21日交通事故民事裁判例集47巻1号68頁)。

自動車検査登録手続・車庫証明手続の代行費,納車費用(消費税含む)


  • 車両所有者が通常これらを販売店に依頼している実情から,買い替えに付随する損害として認められています(東京地判平成15年8月26日交通事故民事裁判例集36巻4号1067頁など)。
  • 軽自動車では車庫証明が不要ですが,地域によって保管場所の届出が必要な場合があり,その代行費用が損害として認められると考えられます。

事故後に増額した車両保険の保険料


  • 物損事故による車両の修理に被害者加入の車両保険を利用して早期の被害回復を図るか,加害者から適正な損害賠償金を得て被害回復を図るかは被害者自身の選択の問題であって,車両保険の利用を選択した結果により保険料が増額したとしても,事故による損害とは認められない旨判断した裁判例があります(東京地判平成13年12月26日自交通事故民事裁判例集34巻6号1687頁)。

廃車手続き費用及び解体費用(消費税含む)


  • 廃車手続きをディーラーに依頼するのは一般的に行われているとして,手続き代行費用も含めた廃車費用は,相当な範囲で損害として認められています(東京地判平成26年3月27日(平成25年(ワ)12228号))。
  • 全損を前提とする車両処分費と通常の車両処分費とは異なるとして,事故車両の解体等の車両処分費用も相当な範囲で損害として認められています(東京地判平成9年1月29日交通事故民事裁判例集30巻1号149頁)
 

買い替え車両の本体価格に対する消費税


  • 事故がなければ負担する必要がなかったものですので,買い替え車両の本体価格に対する消費税も,相当な範囲で損害として認められています。
  • 相当な範囲については,事故時の車両時価額に相当する車両本体価格に対する消費税の限度で,事故と相当因果関係のある損害とみるべきだと判断した裁判例があります(大阪地判平成24年6月14日自保ジャーナル1883号150頁)

グッドライダー・防犯登録(G防犯登録)費用


  • 買替えのために必要であり,金額に照らすと相当性も認められるとして,買替諸費用の項目で損害を認定した裁判例があります(京都地判平成30年5月28日交通事故民事裁判例集51巻3号595頁)

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