自転車の夜間無灯火運転の事情は、過失割合の判断においてどの程度考慮されるのでしょうか?

自転車の夜間無灯火運転に関する法規制

 道路交通法52条1項は,「車両等は、夜間(日没時から日出時までの時間をいう。以下この条及び第六十三条の九第二項において同じ。)、道路にあるときは、政令で定めるところにより、前照灯、車幅灯、尾灯その他の灯火をつけなければならない。政令で定める場合においては、夜間以外の時間にあつても、同様とする。」と定め,車両等の灯火を義務付けています。

 道路交通法52条1項の規定を受けた道路交通法施行令18条1項では,「車両等は、法第五十二条第一項前段の規定により、夜間、道路を通行するときは、次の各号に掲げる区分に従い、それぞれ当該各号に定める灯火をつけなければならない。」とされ,第5号に「軽車両 公安委員会が定める灯火」が挙げられ,各都道府県の道路交通規則で軽車両(自転車はここに含まれます)がつけなければならない灯火の詳細が規定されています。

 道路交通法52条1項違反については,5万円以下の罰金が法定刑として定められています(道路交通法120条1項5号)。

自転車の夜間無灯火運転の事情の考慮

 過失割合の判断については,実務上,別冊判例タイムズ「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」(以下,「別冊判タ」といいます)に記載された基準が参照されています。

 検討の流れとしては,まずは,問題となっている交通事故が別冊判タに掲載された基準のどの類型に近いかを調べます。

 別冊判タに記載のある事故状況である場合,当該基準の基本割合をもとに,修正要素の有無を検討することになります。認定基準にない事故類型の場合,掲載されている近い類型の基準の過失割合を参考に修正を加えるという考え方が取られています。近い類型の基準すら掲載されていない非典型事故の場合には,類似の事故態様の裁判例における判断を参考にしながら過失割合を検討することになります。

 修正要素には,別冊判タの各基準毎に明記されているものもあれば(例えば,信号機により交通整理が行われていない交差点において,対抗右折車と直進車が衝突した類型の基準114では,対抗右折車の早回り右折や大回り右折の事情が直進車の-5%の修正要素として明記されています),問題となっている交通事故の状況から,著しい過失や重過失に該当するかを個別に検討する必要があるものもあります。

 そして,別冊判タ全訂第5版59頁,133頁,388頁には,自転車の著しい過失の例として,「無灯火」が挙げられていますので,自転車の著しい過失の修正要素として考慮することになります。

 ただし,自転車の著しい過失がどの程度の影響するかについては,基準により著しい過失の評価に5%~10%の幅があるため,各基準に問題となっている交通事故を当てはめた後に判断することになります。

 裁判例では,個別の事案に応じて上記判タの判断枠組みから離れて無灯火の事情が考慮されたものもあります。

 例えば,名古屋地判平成30年2月28日自保ジャーナル2023号138頁では,夜間路側帯における歩行者と無灯火自転車との間の事故について,現場の状況や自転車に照明装置が装着されていなかったことから自転車からの前方の見通しが極めて困難だったとして,自転車運転者の一方的な過失で事故が発生したとの判断がなされ,過失相殺が否定されています。

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