事故で自動車の改造が必要な障害が残ってしまったのですが、自動車の改造費用は認められるのでしょうか?

自動車改造費

 重度の後遺障害を負った被害者の移動のために,自動車の改造等が必要になることがあります。

 具体的な改造内容としては,車椅子のリフトの装備等が考えられます。

 このような自動車改造費については,後遺障害の内容や程度に応じ,被害者の移動の手段として必要かつ相当な限度で認められています。

新車の購入の場合

 既存の自動車を改造する場合には,改造費用相当額が損害として認められます。

 一方,新たに福祉車両を購入する場合,自動車は同居の家族も利用することが多いため,家族の利便の影響をどう考えるかが問題となります。

 この点,新車の購入費用を全額損害として認定した例はほとんどなく,障害者仕様部分ないし改造費を損害として認定した裁判例と,購入金額に対する割合ないし金額の一部を損害として認定した裁判例に分かれているとの指摘があります(高取真理子裁判官の講演録「重度後遺障害に伴う諸問題~将来の介護費用を中心として(交通事故による損害賠償の諸問題Ⅲ268~269頁)」)

 確かに,自動車は後遺障害とは関係なく所有されることが多いため,通常は自動車購入費全額が損害として認められないのはやむをえないところです。

 しかし,事故前は家族の誰も自動車を所有していなかったけれども,事故によって改造車の購入が必要となったというような場合には,例外的に自動車自体の購入費を損害として認める余地もあると考えられます。

 東京地判平成21年10月2日自保ジャーナル1816号35頁は,事故前に自動車を所有していなかった事案ですが,「これまで自動車を購入したことがあったわけではないし,自動車を購入する計画があったわけでもない」として,「仮に本件事故が発生しなかったとしても近い将来自動車を購入したであろう蓋然性が極めて高いから,車両を購入するための費用自体は本件事故との相当因果関係を欠いている」との被告の主張を排斥し,自動車の購入費自体を損害として認定しています。

東京地判平成21年10月2日自保ジャーナル1816号35頁


(原告の主張)

(12) 車両購入費                1155万8100円
 原告◯は,屋外の移動に自動車が必要となり,普通乗用自動車を代金281万3955円(改造費を含む。)で購入した。
 また,自動車の耐用年数は6年であるから,1年間に要する自動車の買替費用は47万8226円となる。したがって,平均余命の間に必要となる自動車の買替費用は868万8745円となる。

(被告らの認否)

(12) 否認する。
 車両購入費のうち,原告◯の受傷の程度・内容に応じて改造費の請求は認められるが,原告◯の年齢や事故前の収入,家族構成等に照らせば,仮に本件事故が発生しなかったとしても近い将来自動車を購入したであろう蓋然性が極めて高いから,車両を購入するための費用自体は本件事故との相当因果関係を欠いている。

第4 理由

(13) 車両購入費                1029万1477円
ア 前記(1)イのとおり,原告◯は車椅子で生活しているところ,証拠(甲21,33)及び弁論の全趣旨によれば,移動のための手段として改造した自動車を使用していること,原告◯は,改造した自動車を代金281万3955円で購入していることが認められる。
 原告の身体状況からすると,改造した自動車の必要性が認められるから,同購入代金は本件事故と相当因果関係のある損害ということができる。
イ また,自動車は耐用年数(自家用車の場合は6年)ごとに買い替える必要があることは明らかであり,平均余命約49年の間に8回(6年後,12年後,18年後,24年後,30年後,36年後,42年後,48年後),改造した自動車を買い換える必要がある。
 改造した自動車の購入費用は281万3955円であるから,平均余命約49年の間に必要となる自動車の買替費用は747万7522円と認められる。
 計算式:281万3955円×(0.7462+0.5568+0.4155+0.3100+0.2313+0.1726+0.1288+0.0961)=281万3955円×2.6573=747万7522円
ウ したがって,車両購入費は合計1029万1477円となる。
 なお,被告らは,原告◯の年齢や事故前の収入,家族構成等に照らせば,仮に本件事故が発生しなかったとしても近い将来自動車を購入したであろう蓋然性が極めて高いから,車両を購入するための費用自体は本件事故との相当因果関係を欠いていると主張する。しかしながら,原告◯は,これまで自動車を購入したことがあったわけではないし,自動車を購入する計画があったわけでもないことからすると,同原告が本件事故による被害を受けたか否かにかかわらず近い将来自動車を購入したであろう蓋然性が高いということはできないから,被告らの上記主張は採用できない。


将来の自動車改造費

 自動車改造費は,1台限りではなく,将来にわたって自動車買換の際に必要となる費用ですので,将来の改造費も損害として認められています。

 なお,耐用年数については,税法上の減価償却期間である6年とするものと,現実にはもっと長期の使用が可能だとして8年や10年とするもの等があり,裁判例によって見解が分かれていますが,税法上の償却期間である6年ごととする裁判例が増えているとの指摘があります(北河隆之「交通事故損害賠償法[第2版]」弘文堂2016年132頁)。

 将来分については,装具買換費用と同様に,中間利息を控除して一時金として支払われるのが一般的です。

 具体的な計算方法を挙げると,以下の通りとなります。

(計算例)

 1回の自動車改造費が100万円,平均余命25年にわたり,症状固定時に最初の改造をすると仮定し,その後6年ごとに4回自動車の買換えと改造が必要な場合,6年ごとに100万円の損害が生ずるものとして,年5%の中間利息をライプニッツ式によって控除します。


1,000,000円×(1(1回目,症状固定時)+0.7462(2回目,6年後)+0.5568(3回目,12年後)+0.4155(4回目,18年後)+0.31(5回目,24年後))=3,028,500円


 参照するライプニッツ係数については,自動車改造費の場合,問題となっている耐用年数が整数倍ですので,日弁連交通事故相談センター「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」(通称「赤い本」)の上巻末尾に掲載されている「ライプニッツ係数およびホフマン係数表(原価表)」を見れば簡単にわかります。

 また,計算方法は装具の場合と同様ですので,たかつき法律事務所コラム「装具買換代の計算方法及びEXCELで作成したツールの紹介」で公開しているツールも参考にしていただければと思います。

関連項目

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