事故で大学を留年したのですが、就職していれば得られた収入は損害として認められるのでしょうか?

学生の就労遅延による損害

 交通事故案件のうちには,学生が事故による受傷が原因で留年し,就職が遅れるケースもあります。

 事故で留年し,収入を得ることができなくなった場合,就職すれば得られたはずの給与額が損害として認められれています。

 就職が内定していて給与額が推定できる場合は,内定企業の給与規定等にもとづいて得られた収入を算定することになります。そうでないときは,男女別の学歴・年齢別の平均賃金が参照されています。

 休業損害として扱うか,逸失利益として扱うかについては,裁判例で判断が分かれています。

 大阪地判平成14年8月22日自保ジャーナル1477号19頁は,内定先が決まっていた学生が事故にあって留年した事例ですが,1年遅れで就職した年の収入(9ヶ月分)に,当該年の収入の9分の3の額を加算した約364万円が休業損害等として認められました。

 一方,名古屋地判平成15年5月30日交通事故民事裁判例集36巻3号815頁は,卒業試験を前に控えた音楽大学の4年生が受傷の影響で卒業試験や追試験を受けることができずに留年した事例ですが,賃金センサス企業規模計・産業計・女性労働者大卒20歳から24歳の平均年収(から実際に得た収入を損益相殺した額)が逸失利益として認められています。

大阪地判平成14年8月22日自保ジャーナル1477号19頁


(8) 休業損害等

イ 就労が遅延した1年間に得べかりし収入 364万5127円
 甲第8号証、第9号証、第21号証及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故当時、◯大学工学部4年生に在籍中で、平成10年4月からB株式会社に就職することが内定していたこと、本件事故で受傷したことにより留年を余儀なくされた結果、1年間就労が遅延したこと、原告は平成11年4月から同社に勤務し、平成11年度(同年4月ないし12月)273万3846円、平成12年度(同年1月ないし12月)373万3399円の給与を支給されたことの各事実が認められる。
 原告は、平成11年度の年収に、平成12年1月ないし3月の給与分として平成12年度の年収の12分の3を加算した金額をもって、就労1年目に得べかりし収入額であると主張するが、平成12年度の年収には2年目の昇給分やこれに応じた賞与額が含まれているものと考えられるから、上記原告の計算方法は相当でない。平成11年度年収の9分の3を同年収額に加算するのが相当である。
  2,733,846+2,733,846÷9×3=3,645,127


名古屋地判平成15年5月30日交通事故民事裁判例集36巻3号815頁


(4)ア 平成12年度賃金センサス企業規模計・産業計・女性労働者大卒20歳から24歳の平均年収は302万0800円である。
 イ これに対し、原告は、本人尋問において、大学学部を卒業した者がヤマハの音楽教室に勤めるとすれば、1年目の収入は、1か月あたり15万円から20万円くらいである旨の供述をする。これは、大学学部でピアノ等の音楽を専攻した学生が音楽教室等にピアノ講師等として就職した場合に、1年目に得られる収入について一般的傾向を述べたものであると考えられる。しかし、上記のような卒業生は、音楽教室に勤務するとともに個人で教えたりすることがあること(原告本人)からすれば、上記の金額を超える収入を得ることも可能であると考えられる。
(5)ア これによれば、原告は、平成13年3月に大学学部を卒業していれば、1年目に少なくとも上記平均賃金に相当する302万0800円の収入を得る蓋然性が高かったと認められる。
 イ 一方、原告は、留年中の1年間は名古屋市で歯科医院のアルバイトをして、少なくとも40万円の収入を得ていた(原告本人)。これによれば、原告の逸失利益は、原告が留年中の1年間に卒業したら得られたであろう302万0800円から原告が現実に得た収入である40万円を控除した262万0800円であると認めるのが相当である。


 

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