人身傷害保険とは?
人身傷害保険とは,自動車保険のオプションの一つであり,被保険者である人身事故の被害者に対し,約款に定められた損害額基準に基づいて補償を行う保険商品です。
人身傷害保険の特徴は,被保険者の過失割合の有無や程度にかかわらず,約款上の損害保険基準に基づく補償を受けることができる点にあります。
人身傷害保険金と損益相殺
人身傷害保険金も,実損の填補を目的としており,保険約款に代位規定が存在することから,損益相殺の対象とされています(最三小版平成20年10月7日集民229号19頁)。
そして,最一小判平成24年2月20日民集66巻2号742頁は,「保険金の額と被害者の加害者に対する過失相殺後の損害賠償請求権の額との合計額が裁判基準損害額を上回る場合に限り,その上回る部分に相当する額の範囲で保険金請求権者の加害者に対する損害賠償請求権を代位取得する」との判断を示しました(訴訟基準差額説)。
言いかえると,裁判基準の損害額を基礎として計算した自己過失分を上回る部分について,人身傷害保険を支払った保険会社が代位取得することになります。
したがって,損益相殺の対象となるのは,被保険者の損害のうち,自己過失分を上回る部分ということになります。
また,平成24年最高裁判決は「第1審原告ら固有の損害金元本に対する本件事故日から本件保険金支払日までの遅延損害金の支払請求が否定される理由はない。」と判示していることから,労災保険や公的年金制度に基づく各種年金給付とは異なり,事故時ではなく保険金支払時に元本に充当されると考えられます。
最一小判平成24年2月20日民集66巻2号742頁
(3) 次に,被保険者である被害者に,交通事故の発生等につき過失がある場合において,訴外保険会社が代位取得する保険金請求権者の加害者に対する損害賠償請求権の範囲について検討する。
本件約款によれば,訴外保険会社は,交通事故等により被保険者が死傷した場合においては,被保険者に過失があるときでも,その過失割合を考慮することなく算定される額の保険金を支払うものとされているのであって,上記保険金は,被害者が被る損害に対して支払われる傷害保険金として,被害者が被る実損をその過失の有無,割合にかかわらず填補する趣旨・目的の下で支払われるものと解される。上記保険金が支払われる趣旨・目的に照らすと,本件代位条項にいう「保険金請求権者の権利を害さない範囲」との文言は,保険金請求権者が,被保険者である被害者の過失の有無,割合にかかわらず,上記保険金の支払によって民法上認められるべき過失相殺前の損害額(以下「裁判基準損害額」という。)を確保することができるように解することが合理的である。
そうすると,上記保険金を支払った訴外保険会社は,保険金請求権者に裁判基準損害額に相当する額が確保されるように,上記保険金の額と被害者の加害者に対する過失相殺後の損害賠償請求権の額との合計額が裁判基準損害額を上回る場合に限り,その上回る部分に相当する額の範囲で保険金請求権者の加害者に対する損害賠償請求権を代位取得すると解するのが相当である。
(4) なお,第1審原告ら固有の損害の賠償債務は,本件事故時に発生し,かつ,何らの催告を要することなく,遅滞に陥ったものであるから(最高裁昭和34年(オ)第117号同37年9月4日第三小法廷判決・民集16巻9号1834頁参照),第1審原告ら固有の損害金元本に対する本件事故日から本件保険金支払日までの遅延損害金の支払請求が否定される理由はない。