学生等の学習費,保育費,学費等
学生が交通事故の受傷が原因で,既に授業料を支払っているにもかかわらず休学や留年をせざるをえなくなった場合,余計に支払った授業料等は,事故との因果関係が明らかであれば損害として認められています。
重傷で入通院が長期化したような場合には,事故が原因で留年等をしたことが明らかな場合が多いと思われますが,重傷事案でも,大学生に後遺障害併合1級相当の重度後遺障害が残り,長期休学中に支出した学費について,治療経過から復学が困難だとして,事故と相当因果関係のある損害だと認められなかった事例(大阪地判平成15年1月27日交通事故民事裁判例集36巻1号124頁)もあります。
また,事故以外の事情がある場合,具体的には,事故以前からの学業不良・出席日数不足などがあるような場合には,事故と留年等の相当因果関係が否定され,授業料等が損害として認められない可能性が高いと考えられます。
これまでの裁判例では,以下のような類型が損害として認められています(青本26訂版59頁)。
①受傷による学習進度の遅れを取り戻すための補習費
補習等の必要性が認められる場合に,実費相当額が損害として認められています。
②留年したことにより新たに支払った,あるいは無駄になった事故前に支払い済みの授業料等
授業料以外では,親元を離れて下宿しているようなケースで,余分にかかった家賃などが損害として認められた事例もあります(神戸地判平成8年12月12日交通事故民事裁判例集29巻6号1794頁)。
③被害者が子の養育・監護をできなくなったことにより負担した子供の保育費等
幼児の保育や監護をしている両親等が交通事故で受傷して保育や監護をできなくなり,第三者に保育や監護を委託した場合に生ずる費用を指します。
第三者に子供の保育や監護を委託する必要性が認められる場合に,実費相当額が損害として認められています。
また,交通事故に遭った当事者は異なりますが,③に近い類型として,両親が事故により入院した7歳の子供に対する付添看護をするため,生後間もない子について利用した緊急一時保育の利用料が損害として認められた事例もあります(東京地判平成28年2月25日交通事故民事裁判例集49巻1号255頁)。
本件は,上記②の類型に該当しますが,事故による長期入院があるため事故と留年との間の因果関係を肯定しやすいので,学業不良や出席日数不足などの他の事情がないのであれば,支払った授業料が事故と相当因果関係のある損害として認められる可能性は高いように思います。