歯のインプラント治療の費用は支払われるのでしょうか?

インプラント治療の問題

 歯のインプラント治療は,事故の外傷で顎骨の欠損があり,かつ入院用ベット数が20床以上ある等の受け入れ医療機関の諸要件を満たすなど,ごく限られた場合にのみ健康保険の適用が認められています。

 したがって,インプラント治療のほとんどが自由診療になり,数十万から多いときには数百万など,治療費が非常に高額になる傾向にあります。

 そのため,インプラント治療費をめぐり,保険会社(加害者側)から,過剰診療だとして争われることがあります。

裁判例の判断枠組み

 インプラント治療費を損害として認めた裁判例を見ると,医学的な見地から,他の治療方法と比べてインプラント治療を行うことが適当かどうかがポイントとなっているようです。

 例えば,大阪地判平成19年12月10日判例時報2028号64頁は,インプラント,義歯,ブリッジの3つの治療法を比較した上で,他の2つの治療方法が医学的に適当ではなく,インプラントが望ましいことを原告の証拠から認定して,インプラント治療費を事故と相当因果関係にある損害として認めました。

 また,インプラント治療では定期的なメンテナンスが必要と考えられていますが,裁判例の中には,将来のインプラント更新費やメンテナンス費用を認めたものがあります(仙台地判平成24年2月28日自保ジャーナル1870号28頁)。

大阪地判平成19年12月10日判例時報2028号64頁


ク インプラント費用      81万8680円
 証拠によれば,原告は,本件事故により歯牙の一部を欠損したこと,関西労災病院口腔外科において,一旦歯冠補綴の治療が行われたものの,その後,インプラント治療の希望があったため,平成15年12月14日から兵庫医科大学病院歯科口腔外科において,インプラント治療を行ったこと,上記インプラント治療等のため,同日から平成18年7月13日までの間に,合計31万8680円の治療費を支出したこと及びインプラント治療費は,最終的には,上記支出額に加え,少なくとも50万円が必要であることが認められる。

 そして,証拠によれば,原告の歯牙欠損部の治療に関しては,①インプラント,②可撤性部分床義歯及び③ブリッジの3つの方法が考えられるところ,②の方法については,原告桜子には四肢麻痺があるため,誤嚥・誤飲のリスクがあり,③の方法については,健全歯削合を要し,2次う蝕のリスクや,支台歯への力学的負担が大きいことなどから,治療法として必ずしも適当ではなく,これらと比較すると,①の方法が望ましいことが認められる。
 以上によれば,インプラント費用は,本件事故と相当因果関係がある損害として,今後支出が見込まれる金額を含め,合計81万8680円を認めるのが相当である。


 

仙台地判平成24年2月28日自保ジャーナル1870号28頁


3 将来のインプラント更新費について 62万2055円(請求 76万1096円)
(1)ア インプラント本体の耐用年数については,10年~15年は確実で,現在は20年はもつだろうと考えられている旨の意見が述べられていることからすれば,メンテナンスを継続して行うことを前提として,インプラント本体の耐用年数を20年とするのが相当と認められ,そうすると,原告が本件交通事故から5年後の18歳時点で初回のインプラント植立がなされるとすれば,25年後及び45年後の2回のインプラント更新の必要性があると認められる。

(2) 被告は,インプラント治療が他の安価な治療法があるのにもかかわらず選択されること等からすれば,初回のインプラント治療をもって最終治療として扱うのが相当であり,将来のインプラント更新費の賠償は否定されるべきである旨主張するが,インプラントは,義手,義足等の装具に類する人工物であって,耐用年数を経過したときに更新する必要があるのは当然であるから,初回のインプラント治療をもって最終治療として扱うことはできない。


 

インプラント治療を受ける際の注意点

 前述のとおり,他の治療方法と比べてインプラント治療が医学的に適当であることが求められており,原告側がその証明を行う必要があります。

 歯科クリニックなどから高額なインプラント治療を薦められるケースがありますが,その理由がもっぱら審美的なものであれば,義歯やブリッジ治療でかかる費用の範囲でしか相当な損害として認められない可能性があります。

 医学的に適当かどうかの点について原告側が証明する必要がありますので,実務的には,意見書の作成など,立証のために主治医の協力を得られるかどうかが重要だといえます。

 このように,インプラント治療を受ける場合,治療費の全額が損害として認められない可能性があることには注意が必要です。

 

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