通勤や通学の交通費は損害として認められるのでしょうか?

通勤・通学交通費等

 交通事故の受傷により,事故前の交通手段を利用することができなくなり,通勤や通学で交通費を負担しなければならない事態が生ずることがあります。

 例えば,自転車を利用して通勤・通学していたところ,交通事故の受傷により,公共交通機関を利用する必要が生じた場合などが考えられます。

 このように,事故がなければ負担する必要がなかった交通費が生じる場合には,通院以外でも必要かつ相当な範囲で損害として認められます。

 公共交通機関や自家用車を利用する場合には,それほど金額が大きくならないため,必要性が争われる可能性は高くないと思われますが,タクシーを利用する場合には,必要性が争いになる可能性が高いので注意が必要です。

 東京地判平成17年2月15日交通事故民事裁判例集38巻1号219頁では,歩行に松葉杖が必要な被害者が職場復帰訓練のためにタクシーで通勤した交通費が損害として認められています。

 横浜地判平成20年8月27日自保ジャーナル1755号13頁でも,車いす・松葉杖を使用していた被害者が仕事上の移動をするためにはタクシーを利用するしかなかったとしてタクシー利用の交通費が損害として認められました。

 このように,松葉杖や車いすなどを使用しなければ通勤や通学ができないような場合には,タクシーでの通勤や通学の必要性が認められると考えられます。

 また,車いすや松葉杖が必要な場合以外でも,「乗ろうと思えば電車を利用できる状況にあったことを考慮すると,治療期間全体について,タクシーでの通勤の必要性があったかどうかについては,疑問の余地もある」としながらも,「タクシーでの通勤をしたことによって症状管理や体調の維持等が容易になり,その分全体としての休業範囲が抑えられた結果であるとも評価できる」とし,損害拡大防止義務の観点に照らしてタクシーでの交通費が相当だと認められた裁判例もあります(大阪地判平成25年10月29日交通事故民事裁判例集46巻5号1424頁)。

東京地判平成17年2月15日交通事故民事裁判例集38巻1号219頁


【原告の主張】

(3)職場復帰交通費                  19万8640円
 原告は,平成10年4月14日から同年5月31日までのうち26日と,同年9月1日の計27日,職場復帰をすべく,その訓練のため松葉杖にてタクシーで通勤し,職場復帰交通費を19万8640円支払った。

【被告らの認否及び主張】

(3)職場復帰交通費
 職場復帰の訓練のため,タクシーを利用した交通費は,本件事故と相当因果関係にある損害といえない。

第4 争点に対する判断

(4)職場復帰交通費                  19万8640円
 証拠及び弁論の全趣旨により認める。


横浜地判平成20年8月27日自保ジャーナル1755号13頁


(三) 交通費 34万3880円
 原告は,平成18年12月26日まで車いすを使用し,平成19年2月21日まで松葉杖を使用しなければ移動できなかった。
 原告は,普段仕事において移動する際,自動車を利用するが,上記期間,通院及び仕事上の移動はタクシーによるほかなかった。


大阪地判平成25年10月29日交通事故民事裁判例集46巻5号1424頁


(3) 通勤交通費
ア 原告の主張
(ア) 原告の左膝には平成22年11月26日時点で相当な痛みが残っており,翌年初めの段階で腰痛も残っていた。したがって,原告はまともに歩けず,タクシーでなければ通勤できない状態であった。
(イ) また,原告は現在ですらしばしばタクシーでの通勤を余儀なくされている。
(ウ) したがって,症状固定までのタクシー通勤は相当なものである。

イ 被告の主張
(ア) 原告は受傷翌日から独歩が可能であり,平成22年11月12日の時点で杖なしでの歩行も可能であった。また,通院の際には公共交通機関を用いており,通勤にタクシーを用いるべき必要はない。
(イ) そうすると,原告のタクシー通勤が相当と認められるのは平成22年11月末までであり,それ以降のタクシー代は認められない。

第3 当裁判所の判断

4 通勤交通費について
(1) 原告は平成22年10月の段階で既に通院のためにJRを利用しており,この時点で乗ろうと思えば電車を利用できる状況にあったことを考慮すると,治療期間全体について,タクシーでの通勤の必要性があったかどうかについては,疑問の余地もある。
(2) ただ,本件においては休業損害が15日分にとどまっており,傷害の内容や治療期間,治療経過,最終的な後遺障害の内容等を考慮すると,類似事案の中では相当低い水準にとどまっている。これは業務の内容や本人の努力,あるいはその程度の休業しか要しない症状であったという側面もあるにせよ,タクシーでの通勤をしたことによって症状管理や体調の維持等が容易になり,その分全体としての休業範囲が抑えられた結果であるとも評価できる。そうすると,症状のみから見て必ずしも必要不可欠であるとまではいえなくても,損害拡大防止義務の観点に照らして考えた場合,本件に関する限り,タクシー通勤は理にかなったものとの評価ができ,休業損害と合わせた総額も必ずしも多額でないことに照らしても,この費用については,全体として相当性があるものと認める。


 

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