物損の場合に請求できる損害項目
交通事故に遭って愛車が壊れた場合,修理費用や,新車購入のための資金を賠償してほしいと思うのが通常ですが,残念ながらこれらの請求が必ずしも全て認められるわけではありません。交通事故で車が壊れた,所謂「物損事故」の場合,加害者側に請求できる内容にはいくつかの種類があります。
修理費
交通事故で車両が壊れた場合に,被害者が加害者に対して,修理費相当額を損害として請求できる金額をいいます。
評価損
車を修理しても残った機能上・外観上の欠損や,「事故車」であることを理由として,下がってしまった査定額分を損害として請求できる金額をいいます。
代車使用料
事故により車が使えず,修理期間中や新車購入までの間,レンタカーを借りなければならなかったような場合に,かかった費用を損害として請求できる金額をいいます。
買替諸費用
買い替え諸費用とは交通事故で車が大破して廃車になったような場合に必要となる費用で,登録手続関係費のほか,税金や廃車費用などが含まれます。
慰謝料
芸術品として大切にしていた車両が壊れたような特殊なケースにおいて,例外的に精神的苦痛を損害として請求できる金額をいいます。
各損害項目の詳細
修理費用
交通事故で車両が壊れた場合,原則として,被害者は,加害者に対して修理費に相当する金額を損害として請求することができます。
物理的には修理可能な場合であっても,車の修理費用がその車の時価額と買い替え諸費用の合計額を上回った場合には,「経済的全損」の扱いとなります。この場合,車の時価額までしか支払われないことになっています。
例外的に,事故に遭った車に希少価値があり,中古車市場での高額で取引されるような場合には,賠償額が高くなることもありますが,一般的に新車から10年以上経った車で,市場価格が不明で希少価値もないような場合には,時価額は新車当時の価格の10パーセント程度とされています。
交通事故にあった車両の修理の必要性と,金額の相当性が認められる場合に限って修理費が損害として認められることになります。修理が必要なことに間違いはないけれど,これ幸いと高級仕様に車両改造するなど,修理費用が不当に高額な場合などは,相当とされる金額を超える部分については損害として認められません。
評価損
車両が事故にあったこと自体による市場価値の減少や,事故車両を修理に出したけれど,車両の機能や外観を修復できなかったり,修復はできたけれど機能的・外観上の欠陥が残った場合に減少した車両の市場価値のことを,一般的に「評価損」「格落ち損」などと呼びます。
評価損の中でも,機能的・外観上の欠陥を理由とした市場価値の減少が損害として認められるということでほぼ見解が一致しています。
事故にあったこと自体による市場価値の減少を損害としてみるかどうかについては,否定する裁判例(名古屋地判平成12年6月23日交民33巻3号1008頁)もありますが,取引上の評価損を認める裁判例の方が多い(京都地判平成12年11月21日自保ジャーナル1406号,東京地判平成12年11月21日自保ジャーナル1406号など)です。
評価損を算定する方法はいくつかありますが,メジャーなものとしては修理費を基準として,事故車両の車種・年式・グレード・走行距離・損傷箇所・修理費用の額を総合的に考慮して算定するというものがあります。
具体的には,修理費用の10~30%にあたる金額が損害として認められるケースが多いのですが,中には裁判でこれを超える金額が認められたケースもあります。
代車使用料
交通事故にあった車両を買い替えたり,修理に出したケースにおいて,納車までの車両が使えない期間に代車を使用した場合に,代車の使用料が損害として認められる場合があります。但し,代車を使用した場合に常に全額の使用料が認められるというわけではなく,代車を使用する必要性と,代車費用の相当性が認められる範囲内に限って,代車使用料が損害として認められることになります。
保険会社の中には,被害者に過失がある場合には代車使用料は支払えないという会社もありますが,加害者の過失分に相当する代車使用料は請求できますので,代車使用の必要性がある限り,相当とされる代車使用料の支払を受けることは可能ということができます。
代車使用の必要性とは,車両を使用できない期間中に代車を使用する必要があることをいいます。仕事で使う車両(営業用車両等)のような場合は,代車の必要性が高いと認められやすい反面,自家用の場合は,使用状況が多様であることから,従来の使用状況と代車の使用状況や,他の交通機関の利用可能性等を総合的に勘案して,代車使用の必要性が判断されることになります。
一般的には,通勤・通学のときには必要性が認められ,レジャー・趣味のときには必要性が否定される傾向にあります。
次に代車使用料の相当性とは,代車使用期間が相当であることや,代車使用料が不相当に高額でないことをいいます。具体的には,使用期間については,車両の買替の場合は次の車両の納車まで,修理の場合は引渡しまでの期間が目安となり,必要以上に長期間利用すると,後日使用料が賠償額から控除される可能性もあります。
買替諸費用
買替諸費用についての解説は,「Q買替諸費用として、どのような請求ができるのでしょうか?」を参照下さい。
慰謝料
交通事故の場合,原則として,車両や積荷の物損について,精神的苦痛に対する損害賠償である「慰謝料」を請求することはできません。なぜなら,交通事故の物損は,基本的に車両や積荷といった財産上の利益に損害が生じるものなので,物損によってショックを受けるなどして精神的損害を被ったとしても,金銭による賠償を受けることによって,財産的な損害の回復と同時に回復されると考えられるからです。