自転車走行中の携帯電話の使用は、過失割合の判断においてどの程度考慮されるのでしょうか?

自転車走行中の携帯電話の使用に関する法規制

 道路交通法第71条5号の5では「自動車又は原動機付自転車を運転する場合においては、当該自動車等が停止しているときを除き、携帯電話用装置、自動車電話用装置その他の無線通話装置を通話のために使用し、又は当該自動車等に取り付けられ若しくは持ち込まれた画像表示用装置に表示された画像を注視しないこと。」との定めがあり,自動車や原動機付自転車の走行中に携帯電話で通話したり,画面を注視する行為が禁止されています。

 同法第71条5号の5の規定上は自転車が含まれていませんが,同法6号により「前各号に掲げるもののほか、道路又は交通の状況により、公安委員会が道路における危険を防止し、その他交通の安全を図るため必要と認めて定めた事項」についても禁止されるところ,各都道府県の道路交通規則では自転車についても走行中の携帯電話の通話や画面注視が禁止されています。

 例えば,道路交通法第71条6号を受けた大阪府道路交通規則第13条3号では,「携帯電話用装置を手で保持して通話し、又は画像表示用装置を手で保持してこれに表示された画像を注視しながら自転車を運転しないこと。」と定められています。

 道路交通法第71条6号違反については,5万円以下の罰金が法定刑として定められています(道路交通法第120条1項9号)。

 一方,自動車や原動機付自転車については,令和元年12月1日に施行された改正道路交通法により,6月以下の懲役又は10万円以下の罰金が法定刑として定められています(道路交通法第71条5号の5,第118条1項3号の2)

自転車走行中の携帯電話の使用の事情の考慮

 過失割合の判断については,実務上,別冊判例タイムズ「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」(以下,「別冊判タ」といいます)に記載された基準が参照されています。

 検討の流れとしては,まずは,問題となっている交通事故が別冊判タに掲載された基準のどの類型に近いかを調べます。

 別冊判タに記載のある事故状況である場合,当該基準の基本割合をもとに,修正要素の有無を検討することになります。認定基準にない事故類型の場合,掲載されている近い類型の基準の過失割合を参考に修正を加えるという考え方が取られています。近い類型の基準すら掲載されていない非典型事故の場合には,類似の事故態様の裁判例における判断を参考にしながら過失割合を検討することになります。

 修正要素には,別冊判タの各基準毎に明記されているものもあれば(例えば,信号機により交通整理が行われていない交差点において,対抗右折車と直進車が衝突した類型の基準114では,対抗右折車の早回り右折や大回り右折の事情が直進車の-5%の修正要素として明記されています),問題となっている交通事故の状況から,著しい過失や重過失に該当するかを個別に検討する必要があるものもあります。

 そして,別冊判タ全訂第5版133頁,388頁には,自転車の著しい過失の例として,「携帯電話等の無線通話装置を通話のために使用したり,画像を注視しながら運転すること」が挙げられており,自転車の著しい過失の修正要素として考慮することになります。

 なお,自転車の著しい過失がどの程度の影響するかについては,基準により著しい過失の評価に5%~10%の幅があるため,各基準に問題となっている交通事故を当てはめた後に判断することになります。

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