事故後に行われた確定申告における所得金額が基礎収入として認められなかった事例

東京地判平成18年3月14日交通事故民事裁判例集39巻2号326頁

争点

 事故後に行われた確定申告における所得金額をもとにして基礎収入が算定されるかが争点となりました。

判決文抜粋


(ア)基礎収入については,原告が,以前に勤務していた◯を退職し,本件事故当時,平成11年7月に独立開店した「××××」の屋号の花屋を自営していたところ,平成12年分の所得税の確定申告書上,売上が1215万9150円であり,青色申告特別控除を除く諸経費を控除した申告所得が403万5327円であることが認められる。そして,原告は,同年度において,注文販売の花屋である原告の場合,諸経費を除いても,利益率は少なくとも3割5分程度はあり,固定経費である減価償却費が26万4174円であったことからすれば,少なくとも425万円の収入があった旨主張する。しかし,原告は,同年度の申告期限が平成13年3月15日であったところ,実際に確定申告書を荏原税務署に提出したのは本件事故後で本件訴訟提起後である平成17年10月7日であるところ,平成11年分の所得税の確定申告書上,開店直後であるとはいえ,同年7月30日から同年12月31日までの売上が164万円にとどまっており,上記申告所得の裏付けとなる客観的な証拠は提出されていないから,上記申告所得が実収入であることの証明がないといわざるを得ず,原告主張の年収425万円をもって基礎収入と認めることはできない。


解説

 事業所得者の基礎収入については,事故前年度の申告所得が参照されるのが一般的です。

 しかし,本件では事故後に前年度の確定申告が行われています。

 通常の場合,税金が高くなるため,事業者に実収入より高額の所得を申告をする動機はありません。

 むしろ,節税目的で実収入より低い申告が行われるケースが散見されるところです。

 しかし,本件のように確定申告の内容が損害賠償の算定基礎となる可能性がある場合には,高額の所得を申告する動機がありますので,事故後の確定申告の信用性が問題となります。

 本判決は,開店直後とはいえ事故前々年の平成11年分の確定申告書上の売上が低いことや,申告所得の裏付けとなる客観的な証拠が提出されていないことを理由に,事故前年の平成12年申告所得をもとにした原告主張の年収425万円を基礎収入として認めることはできないと判断しました。

 原告に高額の所得申告をする動機があったことから,申告所得が実収入であることについての立証を求めたものと考えられます。

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