家屋への自動車の飛び込み事故において、物損に関する慰謝料が認められた事例

大阪地判平成元年4月14日 交通事故民事裁判例集22巻2号476頁

争点

 店舗兼居宅へ車両が突入した事案において,慰謝料が認められるかが争点となりました。

判決文抜粋


6 慰藉料
 本件事故は店舗兼居宅として使用されている本件建物に被告運転の加害車両が突入したものであり、まかり間違えれば人命の危険も存したうえ、家庭の平穏を侵害されたことによる有形・無形の損害は、前記の財産的損害の填補のみによっては償いきれないものがあるというべきである。右のほか、証拠上認められる諸般の事情を斟酌すれば、原告が本件事故によって受けた精神的苦痛を慰藉するに足りる慰藉料として、三〇万円を認めるのが相当である。


解説

 物損事故における損害については,修理費用等の財産的損害が填補されれば損害が回復すると考えられているため,原則として物損に関する慰謝料は認められていません。

 しかし,目的物が被害者にとって特別な愛着をいだかせるようなものである場合や,その物損が被害者の愛情利益や精神的平穏を著しく害するような場合には,慰謝料が認められることがあります(東京地判平成元年3月24日交通事故民事裁判例集22巻2号420頁)。

 これまで物損に関する慰謝料が認められた具体的事例としては,自動車による墓石の損傷事故や,事故でペットが死亡ないし死亡にも匹敵する重い傷害をおった事例のほか,本判決のような家屋へ自動車の飛び込み事故の事例が挙げられます。

 本判決では,まかり間違えれば生命の危険もあった上,家庭の平穏を侵害されたことによる有形・無形の損害は財産的損害の填補のみによっては償いきれないとして,慰謝料30万円が認められていまます。

 家屋への自動車の飛び込み事故における慰謝料請求事案では,深夜に大型トラックが民家へ飛び込んで建物・庭が損傷した事故で慰謝料50万円が認められた事例(岡山地判平成8年9月19日交通事故民事裁判例集29巻5号1405頁)や,大型貨物自動車が家屋に衝突して約半年間のアパート生活を余儀なくされ,慰謝料30万円が認められた事例(神戸地判平成13年6月22日交通事故民事裁判例集34巻3号772頁),普通自動車が玄関を損傷し,年末年始を含む1ヶ月以上にわたって玄関にベニヤを打ち付けた状態で過ごすことを余儀なくされ,生活上の不便を被ったとして慰謝料20万円が認められた事例などもあり,物損に関する慰謝料請求事案のなかでは,慰謝料が認められることが多い事故類型であるように思われます。

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