専従者給与は節税目的で計上されたにすぎないと推認し、被害者の申告所得に加算して基礎収入が認定された事例

東京地判平成26年12月24日交通事故民事裁判例集47巻6号1597頁

争点

 妻に多額の専従者給与を計上していた個人事業主(歯科医)の基礎収入が争点になりました。

判決文抜粋


ケ 休業損害 3069万4755円
(ア) 原告は,本件事故の前年には,342万1768円の事業所得(青色申告特別控除前の所得。以下,単に「所得」という。)と24万4085円の給与収入の合計366万5853円の収入を得ていた。
 さらに,原告は,原告が経営する歯科医院(以下「原告歯科医院」という。)の維持のため,固定経費の支出を余儀なくされたのであるから,休業損害を算定するに当たっての基礎収入は,上記の所得及び給与収入に,租税公課14万4400円,広告宣伝費160万3139円,損害保険料86万5020円,修繕費11万3329円,減価償却費467万7922円,福利厚生費35万0789円,給料賃金721万7890円,利子割引料23万7583円,地代家賃390万6000円,諸会費129万2700円,支払手数料91万3500円,リース料76万0620円,専従者給与730万円を加算した3304万8745円となり,その日額は9万0545円(3304万8745円÷365日)となる。

(被告らの主張)

ケ 休業損害
 原告の休業日数は認める。基礎収入は,原告の所得に加算すべき固定経費を,損害保険料,減価償却費,給料賃金及び地代家賃に限るべきである。なお,原告の給与収入は基礎収入に算入しないのが相当である。

第3 当裁判所の判断

ア 基礎収入

 証拠によれば,本件事故の前年である平成20年度の原告の所得は342万1768円,専従者給与は730万円であることが認められるが,専従者給与は,原告と生計を同じくする原告の妻に対する給与であり,節税目的で計上されたにすぎないものと推認することができるから,これは原告の所得と同視するのが相当である。したがって,休業損害を算定するに当たっての基礎収入としては,上記の所得に専従者給与を加算するのが相当である。


解説

 家族に対して給与を支払っているとして,専従者給与の税務申告がなされている場合であっても,節税目的で申告しているだけで,家族が事業に従事していなかったり,例え働いていても,給与額に相当する就労状況ではないことがあります。

 そのような場合の専従者給与は,実際には事業主本人の労務の成果部分と考えることができます。

 本判決は,個人事業主の2倍以上の額の専従者給与の税務申告を行っていた事案において,「節税目的で計上されたにすぎないものと推認することができる」として,専従者給与を加算した上で個人事業主の基礎収入額を認定しました。

 一方,本判決の事案と逆のパターンで,家族らが無給で被害者の事業を手伝っている事案では,申告所得額の中に家族の労務成果部分も含まれていると評価することができます。

 このような場合は,家族らの労務成果部分が控除され,申告所得額に被害者の寄与の割合を乗じた金額が基礎収入として認定されることになると考えられます。

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