全く謝罪をせず、公判廷で記憶にないと供述した態度が慰謝料増額事由にあたらないと判断された事例

東京地判平成30年1月17日交通事故民事裁判例集51巻1号25頁

争点

 加害者の態度が慰謝料増額事由に該当するかが争点となりました。

判決文抜粋


(ウ) なお,原告らは,本件事故後の被告らの対応が不誠実であること,具体的には,①被告◯が被害者側に全く謝罪を行っていないこと,②被告◯が刑事公判の被告人質問において「記憶にない」などと述べて責任逃れの態度に終始したこと,③被告組合連合会が保険会社として不誠実な対応に終始したことを理由に慰謝料を増額すべきと主張する。
 なるほど,本件事故態様,被告◯の過失の内容・程度,亡△や原告らが被った精神的苦痛の甚大さからすれば,原告らの主張も理解し得ないではない。
 しかし,事故後の事情に係る慰謝料増額事由は,加害者側の事故後の態度がおよそ常識に反するような対応をしたなど著しく不相当な場合に限られると解するのが相当であるところ,原告らの主張する事情は,決して望ましい対応とはいえないが,そのことから直ちに著しく不相当な対応とまでは認められないから,いずれも慰謝料増額事由に当たるとはいえず,原告らの上記主張は理由がない。


解説

 過去の裁判例を見ると,無免許、酒酔い、著しいスピード違反等の事故態様が悪質な場合のほか,ひき逃げ,被害者を罵倒,証拠隠滅・虚偽供述等の事故後の態度が極めて悪質な場合に慰謝料が増額されています。

 本判決は,「事故後の事情に係る慰謝料増額事由は,加害者側の事故後の態度がおよそ常識に反するような対応をしたなど著しく不相当な場合に限られる」との判断基準が示した上で,全く謝罪を行っていないことや,公判で記憶にないと主張している態度について,「決して望ましい対応とはいえないが,そのことから直ちに著しく不相当な対応とまでは認められない」として,慰謝料増額事由にあたらないと判断しました。

 加害者が全く謝罪に来ずに保険会社任せにしている態度に立腹し,慰謝料増額を主張してほしいという相談を受けることがあります。

 しかし,本判決のとおり慰謝料増額事由に当たる場面は限定的ですので,残念ながら相談者の意向に沿うことは難しいのが実情です。

コラムの関連記事