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むち打ち症以外の複数の神経症状によって併合14級が認定された事案において、労働能力喪失期間が5年に限定された事例

2019.08.10

大阪地判平成29年12月1日(平成28年(ワ)第4401号)

争点

 左膝創傷の疼痛症状と,右足と右足関節の疼痛症状について,それぞれ「局部に神経症状を残すもの」として14級9号に当たるとされ,併合14級が認定された被害者の労働能力喪失期間が争点となりました。

判決文抜粋


(原告の主張)

(エ) 後遺症逸失利益 427万6882円
 計算式:353万9000円(年収)×10%×12.085(48歳から67歳までの19年に対するライプニッツ係数)
 原告の後遺症について,自賠責保険においては,併合14級とされたが,異なる部位に別個の神経症状を残すものであり,また,その職業が主婦兼介護ヘルパーという肉体的労働というべきものであることから,後遺障害診断書記載の症状からみても,労働能力喪失率は10%,労働能力喪失期間は67歳までとするのが相当である。

(被告の主張)

 (エ) 後遺症逸失利益について,労働能力喪失率は,他覚的所見がないこと,主治医が就労制限をしたこともないことからすれば,どれだけ大きくとも5%が限度である。労働能力喪失期間は,4年が限度である。

第3 当裁判所の判断

(1) 前提となる事実
 ア 原告は,本件事故により,右足打撲,右肘打撲,左腰部打撲,左膝打撲,左膝挫傷の傷害を負った。(甲2)
 イ B病院での治療経過(カルテ(乙5)の記載による)
   B病院での治療は,本件事故発生直後からであり,左足の創傷の縫合から,その抜糸までである。
(ア) 原告は,本件事故が発生した平成25年4月18日,B病院を受診した。
 意識レベルは清明であり,レントゲン監査によれば,「右肘2R,右腰2R,左膝2R,右足2R」であった。
 左膝の創傷は,約15センチメートルであり,筋層には達していなかった。また,左足を「18針ナート」している。
 右足に腫脹があり,圧痛あり,骨折なしで,荷重で疼痛が生じた。
 松葉杖による経過観察とされた。
(イ) 平成25年4月19日,左足創部はきれいとされた。
 原告は,腰痛,右足痛,右足背部痛を訴えた。また,跛行,腫脹,皮下出血が認められ,レントゲンでは,明らかな骨折は認められなかった。
 CT検査では,結腸に憩室炎が認められ,子宮に石灰化が認められたが(筋腫か,との記載がある),他に異常は認められなかった。
 この日の処方は,ヒビテン(消毒液),ゲンタマイシン(外用抗菌剤),ロキソニンパップ(湿布),ロキソニン錠(痛み止め),ムスコタ錠(胃薬)である。
(ウ) 平成25年4月21日,左大腿創部縫合はきれいとされた。
    平成25年4月23日,創部きれい,疼痛少し改善傾向とされた。
    平成25年4月25日から同月29日にかけて,創部発赤が認められたが,原告への処方は,ヒビテン(消毒液)とゲンタマイシン(外用抗菌剤)にとどまる。
    平成25年4月29日に部分抜糸が開始され,同年5月2日にも部分抜糸がされ,同月4日に全抜糸された。原告の創部はきれいであり,痂皮(かさぶた)ができていたようである。
    原告には,ヒビテン(消毒液)が処方されている。
(エ) B病院への通院は,平成25年5月4日が最後である。(以上,乙5)
   ウ C外科・E病院での治療経過(各病院のカルテ(乙6,8)の記載による)
     原告は,C外科へ,B病院での抜糸終了後,通院している。C外科への通院の終わり頃,原告は,1度だけ,MRI検査の為,E病院に通院している。
(ア) 原告は,平成25年5月7日,C外科を受診した。
      右足痛があり,以前,ガス爆発で右足を負傷したとの記載がある。この日の処方は,ゲンタシンクリーム(外用抗菌剤)のみであった。
(イ) 初診日以降,原告は,平成26年1月28日まで,ほぼ毎日のように通院している。
  C外科では,この間,創傷処置と消炎鎮痛処置(器具)が行われている(平成25年5月23日以降は,消炎鎮痛処置(器具)のみ)。
 その間の処方は,平成25年5月11日,同年6月18日に,ロキソニンゲル(消炎鎮痛剤),同年7月20日にゲンタシンクリーム(外用抗菌剤),同年10月17日にロキソニンゲル,同年12月10日にゲンタシンクロームが出されており,消炎鎮痛剤と外用抗菌剤が処方されていた。
(ウ) 平成25年7月9日に「正常。歩行できるのか?」,同年8月8日に「右足痛」,同年10月17日に「右腰痛(+)」,同年12月20日に「リハ,とれるまでは損保ジャパン(結果出たら自費),1.8(水)AM12~MRI右足」との記載がある。
 平成25年10月28日付け「治療経過に関する担当医所見」によれば,今後の見通しについて,選択式の回答のうち,「医学的には問題がないので,症状固定(治療終了)は本人次第である」が選ばれておらず,「今後も本人の愁訴に基づく治療は行う予定だが,治療効果や症状改善については変化はなくなっている為,話し合いによる解決には問題がない。」が選ばれている。
 なお,上記所見によれば,「仕事を開始本格化した10月中旬より」という部分があるが,これは,右足関節をかばうために他の部分に症状が出たとする記載の一部である。原告の症状自体は,増悪傾向と記載されており,「当初から立ち上がる時に右足関節疼痛が強く,長時間の立ちっぱなしの生活は不能。」,日常生活について,「座り生活は可能」と記載がある。
(エ) 平成27年12月8日付け「照会・回答書」によれば,初診時の所見として,左膝部に「受傷時B病院で処理された縫合創がケロイド状に盛り上がった瘢痕があり,また,創周囲の腫脹,発赤が認められた」,右足関節部に「腫脹が全周に強く認められる他に,内出血が右足背まで及んでいた」との記載がある。
 処置内容として,左膝部には「ゲンタシンクリームを使用し処置した,右足関節部にはロキソニンゲルを使用し,処置した。消炎鎮痛処置を施行したが,完全には回復しなかった」との記載がある。
(オ) 原告は,平成26年1月8日,E病院を受診し,MRI検査を受けた(E病院への受診は,この日のみ)。
 E病院での所見は,「足関節貯留あるが,周辺の骨骨髄に挫傷による浮腫を示す画像等を認めない」,「距腓靭帯はじめ外側靭帯に明らかな腫大や画像を認めない」,「足根洞とみられる脂肪高信号相にも浮腫を示す画像を認めない」とされている。
(カ) 原告は,平成26年1月28日まで,C外科に通院した。(以上,乙6,8)
エ D鍼灸整骨院での施術経過(施術録(乙7)による)
 原告は,C外科に通院中の期間,並行して,D鍼灸整骨院の施術を受けている。
(ア) 原告は,平成25年9月10日,D鍼灸整骨院を受診している。「右足の打撲は,内出血などは消えているが,痛みがまだあり,立ち上がるときに痛みが出る」。「左腰の打撲は,事故直後よりは減少しているが,家事を長時間続けると痛みが腰から臀部にかけて出現する」。「左膝も痛みが残り,膝の可動域が低下している。階段の昇降時がつらい」。「左膝から大腿部にかけての挫傷も傷口の違和感と,長時間の座位から立つ時,起床時に特に痛みが出る。左足に力が入らない」とされている。
 できる限りの歩行訓練,ストレッチをするようにとの指導が行われている。
(イ) 平成25年10月には,右足根部が一番強く痛み,また,「立ち上がる時に特に強く痛みを感じ,力が入らない」とされている。
 左腰は,立ち仕事時,寝返り時に痛み,左膝は,立ち仕事時に痛むとされ,「長時間の歩行は無理です」との記載がある。
 歩行訓練,ストレッチの指導がされている。また,負傷部位を冷やさないように注意が行われている。
(ウ) 平成25年11月には,右足根部及び左腰の痛みが少し減少してきたとされている。しかし,「長距離の歩行は無理です」との記載があり,左膝は,「手術による筋力低下もあり,安定感がな」いとされている。
  平成25年10月と同様,歩行訓練,ストレッチの指導及び負傷部位を冷やさないようにとの注意が行われている。
(エ) 平成25年12月には,右足根部の痛みは減少し,「長時間歩行もできるようになってきた」とされている。また,左腰の痛みも減少し,「生活レベルの動きなら無理なく出来る」とされている。左膝は,筋力低下により,「階段がしんどい」とされている。
  なお,平成25年12月18日,施術が中止された。(以上,乙7)
オ 原告は,平成26年1月28日,C外科で,症状固定との診断を受け,左膝創の疼痛,右足と右足関節の疼痛,右足関節の機能障害(可動域制限),右膝と腰の疼痛,左大腿の瘢痕の症状が残存しているとの診断を受けた。(甲6)
 損害保険料率算出機構は,左膝創傷の疼痛症状と,右足と右足関節の疼痛症状とについて,それぞれ「局部に神経症状を残すもの」として,それぞれ14級9号に該当するとし,併せて併合14級と判断したが,その余の症状については等級非該当と判断した。(甲7)

(2) 判断

(エ) 後遺障害逸失利益 76万0887円
a 基礎収入は,前記(ウ)aと同様に,353万9000円と認められる。(弁論の全趣旨)
b 労働能力喪失率は,併合14級の後遺障害であり,5%とするのが相当である。
 原告は,異なる部位に別個の神経症状を残していることや,主婦兼介護ヘルパーであることから,10%の喪失率を主張するが,前記(1)の原告の治療経過や原告の供述からうかがえる現在の仕事の内容(主婦兼ケアマネージャーであると認められる。原告本人)からすれば,5%を超える喪失率を認めることはできない。
c 労働能力喪失期間についても,前記bの判示を踏まえると,5年間を超えるものではないと認められる(ライプニッツ係数にして4.3294)。
d 後遺障害逸失利益は,353万9000円(基礎年収)に,5%(喪失率)を乗じ,更に4.3294(ライプニッツ係数)を乗じた76万6087円となる(1円未満切捨て)。


解説

 一般的に,むち打ち症による神経症状については労働能力喪失期間が限定されています。

 裁判実務で広く参照されている日弁連交通事故相談センター「損害賠償算定基準」(通称「赤い本」)によれば,12級13号について10年,14級9号について5年が労働能力喪失期間の目安とされ,大阪弁護士会交通事故委員会「交通事故損害賠償算定のしおり20訂版(令和2年3月発行)」によると,いわゆるむち打ち症の場合には,12級13号について5~10年,14級9号について3~5年が労働能力喪失期間の一応の目安とされています。

 なお,「交通事故損害賠償算定のしおり19訂版」以前は,14級9号について2~5年が労働能力喪失期間の一応の目安(本判決当時の目安です)とされていました。

 一方,むち打ち症以外の軽度神経症状の場合,労働能力喪失期間の目安はいずれの文献にも記載されておらず,むち打ち症と同様に労働能力喪失期間が限定されるか否かが争点になっています。

 この点,小林邦夫裁判官の講演録「むち打ち症以外の原因による後遺障害等級12級又は14級に該当する神経症状と労働能力喪失期間(赤い本平成19年下巻81頁)」では,「神経症状が痛み(疼痛)を中心とする場合には,原則として喪失期間を5年ないし10年に限定するのが相当なケースが多い」と指摘されています。

 むち打ち症以外の原因による14級9号の事例については,原告が労働能力喪失期間5年で逸失利益を請求しているために労働能力喪失期間の限定が問題になっていない裁判例も少なくありませんが,本件では,原告が就労可能期間までの労働能力喪失期間を主張したことから,労働能力喪失期間限定の可否が争点となりました。

 本判決は,治療経過や仕事内容から,原告の労働能力喪失率10%,67歳までの労働能力喪失期間の主張を排斥し,労働能力喪失率5%,労働能力喪失期間5年を認定しました。

 労働能力喪失期間について「5年間を超えるものではないと認められる」と判示していることを見ると,むち打ち症を原因とする神経症状における2~5年の喪失期間の目安を意識した判断であることが伺われます。

 そして,判決文中の「前提となる事実」で記載された治療経過を見ると,本件は「痛み(疼痛)を中心とする神経症状」の事案であると考えられます。

 本判決は,むち打ち症以外の原因による14級9号の「痛み(疼痛)を中心とする神経症状」について,労働能力喪失期間が5年に限定された事例の一つとして,参考になると思われます。

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