歯牙障害
自賠法施行令別表における歯牙障害の等級認定基準は,「◯◯歯以上に対し歯科補綴を加えたもの」と記載されています。
補綴とは,抜歯部分について入れ歯や過橋義歯,欠損部分について合金やレジンで補完するなど,人工物によって喪失又は欠損した部分を補うことをいいます。
後遺障害の等級認定基準における要件は限定的で,現実に喪失(抜歯も含みます)又は著しく欠損した歯牙(歯冠部の体積3/4以上を欠損)に対する補綴及び,残存歯冠部の一部を切除したために歯冠部の大部分を欠損したのと同等な状況になったものに対して補綴したものを指すとされています。
したがって,補綴された歯でも,例えば,歯冠部の体積1/2の欠損に対してレジンで補完した歯などは要件を満たさず,本数としてカウントできません。
事故で直接抜けたり欠損した歯だけではなく,治療過程で抜歯したり,(歯冠部の体積3/4以上を)削った歯の本数もカウントします。
歯牙障害の後遺障害等級認定で注意する点として,既存障害の扱いがあります。
自賠責保険の扱いでは,事故時において,すでに歯科補綴を加えた歯が存在していた場合,既存障害として本数にカウントして認定を行って後遺障害慰謝料を算定し,その後に既存障害の本数で認定される等級の後遺障害慰謝料を控除しています。
歯科補綴といえば,虫歯の治療が第一に思い浮かぶところですが,この点については,C4レベルの重度の虫歯であれば,既存障害としてカウントされています。
少しわかりにくいので,既存障害の取り扱いについて具体例を挙げてみましょう。
事故前から既存障害3歯が存在し,事故により3歯に補綴を加えた場合,合計6歯が現実に喪失又は著しく欠損したものとして考えて13級5号が認定され,その上で,既存障害の3歯分の14級2号の慰謝料を控除することになります。
歯牙障害の等級表
後遺障害等級 | 後遺障害認定基準 |
---|---|
10級4号 | 14歯以上に対し歯科補綴を加えたもの |
11級4号 | 10歯以上に対し歯科補綴を加えたもの |
12級3号 | 7歯以上に対し歯科補綴を加えたもの |
13級5号 | 5歯以上に対し歯科補綴を加えたもの |
14級2号 | 3歯以上に対し歯科補綴を加えたもの |
歯牙障害による労働能力の喪失
歯牙障害は,加害者(保険会社)から労働能力喪失が争われやすい後遺障害の一つです。
歯牙障害については,歯科補綴によって歯の機能が回復すると考えられていることから,一般的には労働能力の喪失が否定されることが多いといえます。
もっとも,具体的な支障が生じていることを証明することができれば,逸失利益が認めれる可能性はあります。
例えば,アナウンサー,俳優,声優など,発声機能が重視される職業についているような場合や,スポーツ選手や重度の肉体労働に従事しているなど,歯を食いしばって力をいれるような職業についているような場合には,歯科補綴しても機能が十分に回復せず,業務に支障を来たしていると評価できるように思います。
なお,歯牙障害で逸失利益が否定される場合には,歯牙障害を後遺障害慰謝料の増額事由として考慮することができると考えられています。