傷害慰謝料とは?
傷害慰謝料とは,交通事故の受傷による精神的損害を賠償する目的の慰謝料のことをいいます。 実務上,傷害慰謝料は,医療機関への入通院期間や日数に応じて算定されるため,入通院慰謝料とも呼ばれています。
具体的な算出基準は,自賠責保険,任意保険会社,裁判所で各々異なる基準が採用されています。
自賠責保険の基準
自賠責保険基準は,自動車損害賠償保障法で定められた自賠責保険制度の基準です。
早期に支払を受けられるというメリットがある反面,自賠責保険では最低限の保障を行うことを目的としているため,支払額は相当低く設定されています。
具体的には,1日4300円(令和2年4月1日以降に発生した事故に適用される基準。平成22年4月1日以降令和2年3月31日までに発生した事故については1日4200円)×実治療日数(実際に入通院した日数)×2で算出されますが,実治療日数×2が総治療日数(初診から治療を終了した日までの総日数)を上回る場合には,総治療日数が限度となります。
任意保険会社の基準
保険会社が独自に定めている支払基準を任意保険基準と呼んでいます。
自賠責保険よりは高額ですが,裁判所の基準よりは低いのが通常です。
裁判所の基準
赤い本の基準
日弁連交通事故相談センター「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」(通称「赤い本」)の慰謝料基準が全国的に広く用いられていますが,大阪地裁や名古屋地裁では独自の基準が用いられています。
赤い本の入通院慰謝料算定基準には,受傷の程度に応じて,通常の怪我の場合に適用される別表Ⅰの基準と,むち打ち症で他覚所見がない場合や,軽い打撲・挫創の場合に適用される別表Ⅱの基準があり,別表Ⅱの基準によって算定される額は,おおよそ別表Ⅰの基準によって算定される額の3分の2程度となっています。また,重傷事案など,傷害の部位・程度によっては別表Ⅰの金額を20%~30%程度増額することがあります。
別表には横軸に入院期間,縦軸に通院期間を組み合わせた表が記載されています。
例えば,交通事故で骨折して1ヶ月入院し,その後6ヶ月通院した場合,別表Ⅰの表にあてはめますと,入通院慰謝料は149万円になります。
入通院期間に応じて入通院慰謝料が算定されるのが原則ですが,通院が長期に渡る場合,例えば赤い本の別表Ⅰでは実通院日数の3.5倍,別表Ⅱでは実通院日数の3倍が通院期間の目安とすることもあるとされています。
なお,赤い本にはどのくらいの期間が「長期」にあたるかの目安は記載されていませんが,「概ね通院期間が1年以上にわたる場合と考えて良い」と指摘するものがあり,参考になります(北河隆之「交通事故損害賠償法[第2版]弘文堂2016」240頁)。
また,赤い本の基準に基づいて計算される慰謝料はあくまで目安であり,事案によって異なる場合があることには注意が必要です。
端数がある場合の計算方法
前述の事例の149万円という額は,入院1ヶ月53万と,総治療期間7ヶ月について通院の基準を当てはめた124万円の合計177万円から,入院期間1ヶ月について通院の基準を当てはめた28万円を控除した額と一致しています。
ここから,表には記載されていない1ヶ月未満の入通院期間がある場合にも,同じ要領で計算することが可能です。
例えば,1ヶ月と12日入院し,その後5ヶ月と15日通院したとします。
このとき,総治療期間は6ヶ月と26日で,1ヶ月を30日として,端数を計算します。
①入院慰謝料:53+(101-53)✕12/30=72.2(万円)
②総治療期間に対応する通院慰謝料:116+(124-116)✕27/30=123.2(万円)
③入院期間に対応する通院慰謝料:28+(52-28)✕12/30=37.6(万円)
入通院慰謝料(①+②-③)=157.8万円
別表Ⅰ
別表Ⅱ
大阪地裁の基準
大阪地裁では,赤い本とは異なる独自の基準が用いられています。
計算方法は赤い本別表の場合と変わりませんが,全体的には赤い本の基準と比べて控えめの額になっています。
通常基準が概ね赤い本別表Ⅰに対応しています。
赤い本別表Ⅱに該当する軽度の神経症状(むち打ち症で他覚所見のない場合等)の入通院慰謝料については,通常基準の3分の2程度とするとされています。
重傷基準でいう「重傷」とは,重度の意識障害が相当期間継続した場合,骨折又は臓器損傷の程度が重大であるか多発した場合等,社会通念上,負傷の程度が著しい場合をいうとされ,このような重傷に至らない場合であっても,傷害の部位・程度によっては通常基準額を増額することがあるとされています。
なお,重傷基準と赤い本別表Ⅰを比較しますと,重傷基準の入通院慰謝料額が別表Ⅰの額を上回りますが,別表Ⅰを20~30%程度増額した場合には,増額後の別表Ⅰの方が高額になっています。
また,基準では,通院が長期にわたり,かつ不規則な場合は,通院期間と実通院日数を3.5倍した日数とを比較し,少ない方の日数を基礎として通院期間を計算するとされていますが,「通院が長期にわたり,かつ不規則な場合」に該当するか否かの判断は評価の問題であるため,必ずしも常に実通院日数の3.5倍の基準が採用されるわけではないとの指摘があります(大阪地裁における交通損害賠償の算定基準(第3版)60頁)
平成17年基準 通常(平成17年1月1日以降発生の事故に適用)
平成17年基準 重傷(平成17年1月1日以降発生の事故に適用)