自転車の酒気帯び運転や酒酔い運転の事情は、過失割合の判断においてどの程度考慮されるのでしょうか?

自転車の酒気帯び運転・酒酔い運転に関する法規制

 酒気帯び運転は,道路交通法117条の2の2第3号を受けた道路交通法施行令44条の3によると,「血液一ミリリットルにつき〇・三ミリグラム又は呼気一リットルにつき〇・一五ミリグラム」のアルコールを含んだ状態を指します。

 自転車も軽車両として道路交通法の適用を受けるところ,同法65条では「何人も、酒気を帯びて車両等を運転してはならない。」との定めがあり,自転車の酒気帯び運転が禁止されています。

 但し,自転車の酒気帯び運転については,行政処分として違反点数の定めがあるものの,自動車の場合とは異なって刑事罰は定められていません(道路交通法117条の2の2第3号で軽車両が罰則の対象から除外されています)。

 一方,酒酔い運転は,道路交通法117条の2第1号によると,「アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態」をいい,運転者の状態に着目した定義です。「正常な運転ができないおそれがある状態」とは,例えば,まっすぐ歩けないとか,ろれつが回らないような状態を指します。

 酒酔い運転の刑事罰は自転車も対象となり,5年以下の懲役又は100万円以下の罰金が法定刑として定められています(道路交通法117条の2第1号)。

自転車の酒気帯び運転・酒酔い運転の事情の考慮

 過失割合の判断については,実務上,別冊判例タイムズ「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」(以下,「別冊判タ」といいます)に記載された基準が参照されています。

 検討の流れとしては,まずは,問題となっている交通事故が別冊判タに掲載された基準のどの類型に近いかを調べます。

 別冊判タに記載のある事故状況である場合,当該基準の基本割合をもとに,修正要素の有無を検討することになります。認定基準にない事故類型の場合,掲載されている近い類型の基準の過失割合を参考に修正を加えるという考え方が取られています。近い類型の基準すら掲載されていない非典型事故の場合には,類似の事故態様の裁判例における判断を参考にしながら過失割合を検討することになります。

 修正要素には,別冊判タの各基準毎に明記されているものもあれば(例えば,信号機により交通整理が行われていない交差点において,対抗右折車と直進車が衝突した類型の基準114では,対抗右折車の早回り右折や大回り右折の事情が直進車の-5%の修正要素として明記されています),問題となっている交通事故の状況から,著しい過失や重過失に該当するかを個別に検討する必要があるものもあります。

 酒気帯び運転については,別冊判タ全訂第5版133頁や388頁には,自転車の著しい過失の例として,「酒気帯び運転」が挙げられており,自転車の著しい過失の修正要素として考慮することになります。

 自転車の著しい過失がどの程度の影響するかについては,基準により著しい過失の評価に5%~10%の幅があるため,各基準に問題となっている交通事故を当てはめた後に判断することになります。

 一方,酒酔い運転については,別冊判タ全訂第5版134頁や388頁には,自転車の重過失の例として,「酒酔い運転」が挙げられており,自転車の重過失の修正要素として考慮することになります。

 自転車の重過失がどの程度の影響するかについては,基準により重過失の評価に5%~20%の幅があるため,各基準に問題となっている交通事故を当てはめた後に判断することになります。

 多くの基準では著しい過失と重過失が区別され,重過失の方が大きな修正要素となっていますが,基準の中には著しい過失と重過失が区別されていないものもあります。

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