事例のポイント
70代 / 自営業
事故前年度申告所得を超える基礎収入及び支払い打ち切り後の休業期間が認められた事例
ご相談内容
被害者 | 70代自営業男性 |
---|---|
部位 | 足 |
傷病名 | 右大腿骨頸部骨折 |
後遺障害等級 | 12級7号 |
獲得金額 | 700万円 |
本件は、示談提示前にご相談を受け、弁護士委任となった案件です。
サポートの流れ
項目 | サポート前 | 増額幅 | サポート後 |
---|---|---|---|
後遺障害等級 | – | 12級7号 | |
治療費 | 93.4 | 0 | 93.4 |
入通院慰謝料 | 0 | 178 | 178 |
通院費 | 1.1 | 0 | 1.1 |
入院諸雑費 | 0 | 7 | 7 |
文書料 | 0 | 0.7 | 0.7 |
その他(杖) | 1 | 0 | 1 |
休業損害 | 54.1 | 46.9(1.9倍) | 101 |
逸失利益 | 0 | 161 | 161 |
後遺障害慰謝料 | 0 | 290 | 290 |
和解調整金 | 0 | 16.4 | 16.4 |
既払金 | -149.6 | 0 | -149.6 |
合計 | 0 | 700 | 700 |
単位:万円 |
取得金額
700万円
受傷部位
足
後遺障害等級
12級7号
当方: 相手:
1 休業期間について
本件で依頼者は総合病院で入院して手術を受け,退院後も経過を見るために同病院に通院するとともに,同時に通院しやすい近隣の整形外科でリハビリを受けていました。
保険会社も当初休業損害の前払いに応じていたものの,リハビリを受けている近隣の整形外科からの医療照会の回答を根拠に,事故後約4ヶ月で休業の必要はなくなったと主張して休業損害の支払いを打ち切ってきました。
しかしながら,当職が保険会社から医療照会書の写しの交付を受けて内容を確認したところ,依頼者の職業はバイクで顧客のところに出向いて施術を行う訪問鍼灸マッサージ師でしたが,医療照会書には整骨院の柔整師と依頼者の職業が誤って記載されていました。
整骨院の柔整師という職業を元に復職可能性が判断されていた場合,バイクでの移動負担が考慮されていない可能性がありました。
そこで,近隣の整形外科に医療照会書の内容について確認したところ,医師は医療照会書の記載で依頼者の職業を初めて知ったことや,総合病院で鎮痛剤の処方をうけていたことすら把握せずに回答していたことが判明しました。
そこで,上記の近隣の整形外科の医師が依頼者の仕事の内容を把握せずに照会に応じていたことや,手術を行った総合病院の医師に復職可能性を照会すべきであったことを指摘し,依頼者が総合病院の医師から復職可能との診断を受けた事故後6ヶ月まで休業期間が認められるべきと主張して休業期間を争いました。
2 休業損害及び逸失利益の基礎収入について
(1)事故前年度申告所の基礎収入について
自営業者については,事故前年度の申告所得を基礎収入として,休業損害・逸失利益が算定されるのが一般的です。
しかし,事故前年度申告所得を元にすると,依頼者の基礎収入はわずか73万円にしかならない事案でした。
そこで,当職は依頼者から自営業の売上の推移や営業実態を詳細に聞き取った上で,以下の通り事故前年度申告所得を超える基礎収入を認定するよう求めました。
(2)過去3年の申告所得の平均額から基礎収入を算定する方法について
当職は,事故前年度は依頼者がガン手術のため入院しなければならず,退院後も術後の安定のためにしばらく仕事ができなかった期間があったという特殊事情から,事故前年の申告所得が特に低い金額になっていたことを指摘し,先例の東京地判平成21年12月24日交民42.6.1678で用いたれた過去3年の申告所得の平均額から基礎収入を算定する方法が妥当であると主張いたしました。
本件で過去3年の申告所得の平均額を計算すると131万円と事故前年度申告所得の73万円を大きく上回りました。
(3)地代家賃,水道光熱費,自宅計算費が実質的には所得にあたること
依頼者が確定申告を依頼した税理士は,自宅兼事務所という名目で,自宅の年間家賃,水道光熱費,通信費の半額を経費として計上していました。
この点,自宅を事業所としていたプログラム開発等の業務に従事する個人事業主の事案において,自宅家賃の半額は税務処理上経費として計上されていた似すぎず,実質的には被害者の所得と認めるのが相当と判断した裁判例(前掲東京地裁平成21年判決)があり,本件の事案についても同様の判断が当てはまるものと考えられました。
そこで,自宅の年間家賃,水道光熱費,通信費が実質的には所得に当たるとして休業損害及び逸失利益の基礎収入に加算するよう求めました。
(4)減価償却費の加算について
事故前年度の減価償却費についても,所得税法において過去に投資したものについて必要経費として控除できるとされているにすぎませんので,休業損害及び逸失利益の基礎収入に加算するよう求めました。
(5)休業損害の基礎収入への固定経費の加算について
裁判実務では,固定経費は控除せずに純収入に加算して休業損害の基礎収入とする扱いが取られており,一般的には,賃料・従業員給与・減価償却費・損害保険料・電話基本料・水道光熱費基本料などが固定経費になると考えられます。
そこで,従業員給与を休業損害の基礎収入に加算するとともに,携帯電話基本料金,損害保険料(鍼灸賠償責任保険)の年間保険料を固定経費として休業損害の基礎収入に加算するよう求めました。
(6)逸失利益及び休業損害の基礎収入額について
(1)~(5)の通り,事故前年度申告所得73万円ではなく,逸失利益の基礎収入について固定経費分を除く178万円,休業損害の基礎収入について固定経費分を加算した282万円(日額7728円)をもとに逸失利益・休業損害を算定するように求めました。
解決内容
1 慰謝料について
当職が請求した通り,裁判所の慰謝料基準の満額が認められました。
2 逸失利益について
当初保険会社は高齢であることを理由に労働能力喪失期間5年を主張してきましたが,依頼者が自営業者であり,被用者と異なって自分の意思で仕事を続けることができることを指摘して平均余命の1/2年である8年を主張したところ,基礎収入額178万円,労働能力喪失期間8年(ライプニッツ係数6.463)で計算した約161万円が認められました。
3 休業損害について
保険会社は当職が主張した通りの休業期間を認めた一方で,休業損害の日額を一部減額して休業損害を計算してきました。
仮に訴訟で争った場合に,主張通りの休業期間・基礎収入が認められるとは限らない事案でしたので,依頼者と協議の上,最終的に切りの良い700万円まで和解の調整金を上乗せした金額で示談に応じることにしました。
所感(担当弁護士より)
事故前年度申告所得の通りに逸失利益や休業期間の基礎収入を計算したり,保険会社が支払いを打ち切った時点までを休業期間として休業損害を計算した場合,依頼者の逸失利益や休業損害が相当低い額になってしまう事案でした。
仮に訴訟で争った場合,依頼者が希望している休業期間・基礎収入が認められるとは限らず,減額リスクを考えると示談することにメリットがある事案でした。
本件では,基礎収入の内容を詳細に主張し,休業期間の医療照会結果について医師へ問い合わせを行った上で反論した結果,事故前年度申告所得を超える基礎収入が認められるとともに,保険会社の休業損害支払い打ち切り後の休業期間が認められました。