外貌醜状の異議申立で9級に昇級し,67歳まで労働能力喪失率5%で算定した逸失利益が認められた事例

10代男子学生
後遺障害等級
9級16号
傷病名
左前額部挫創
保険会社提示額
提示前
最終獲得額
810万円

事例のポイント

10代 / 男子学生

 異議申し立てにより後遺障害等級が12級14号から9級16号に。また、入通院慰謝料、逸失利益、後遺障害慰謝料が認められ、810万円を獲得した事例

ご相談内容

被害者 10代男子学生
部位 顔(額)
傷病名 左前額部挫創
後遺障害等級 9級16号
獲得金額 810万円

 左前額部挫創に関し,直線で計測すると5センチメートルに満たないことから,事前認定で外貌醜状12級14号が認定された事案について,異議申立てをすることで9級16号へ昇級する可能性があるかについて,ご相談がありました。

サポートの流れ

項目 サポート前 サポート後 増額幅
後遺障害等級 12級14号 9級16号  
入通院慰謝料   123.9 123.9
逸失利益   360.5 360.5
後遺障害慰謝料   670 670
付添看護費   3 3
治療費等 1.6 1.9 0.3
過失相殺(30%)   -347.7
既払い金 -1.6 -1.6
合計 0 810 810
単位:万円

取得金額

810万円

受傷部位

顔(額)

後遺障害等級

9級16号

当方:30 相手:70 

異議申立

異議申立前 異議申立後
12級14号
外貌に醜状を残すもの
(補足:顔面部に残った長さ3センチメートル以上の線状痕)
9級16号
外貌に相当程度の醜状を残すもの
(補足:顔面部に残った長さ5センチメートル以上の線状痕)

 線状痕に関しては,後遺障害12級14号(外貌に醜状を残すもの)の認定基準として,「長さ3センチメートル以上」であることが必要だとされています。
 そして,線状痕に関する上位等級として,後遺障害9級16号(外貌に相当程度の醜状を残すもの)があり,その認定基準は,「長さ5センチメートル以上」であることが必要とされています。
 本件は,直線で計測すると5センチメートルに満たないことから,事前認定で12級14号の認定に留まった事案です。
 痕に沿って計測した長さ等をもとに12級14号が認定された大阪地判平成10年1月23日交通事故民事裁判例集31巻1号57頁を先例として挙げた上で,線状痕の上に糸を重ね,その糸の長さを計測する方法を示して異議申し立てを行いました。
 その結果,異議申立てが認められ,外貌醜状の後遺障害について,12級14号から9級16号へ昇級いたしました。

法律上の争点

 外貌醜状はそれ自体が身体的機能を左右するものではないため,労働能力喪失が争われることが多い後遺障害の類型の一つです。
 過去の裁判例については,醜状障害の具体的な内容・程度,被害者の性別,年齢,職業等を考慮した上で,以下のような取扱いを行っている傾向があると指摘されています(河邉義典裁判官の講演録,東京三弁護士会交通事故処理委員会「新しい交通賠償論の胎動-創立40周年記念公演を中心として」ぎょうせい2002 9頁など)。

  • 醜状痕の存在のために配置転換を受けたり,職業選択の幅が狭められたりするなど労働能力に直接的な影響を及ぼすおそれがある場合には一定割合の労働能力喪失を肯定して逸失利益を認める。
  • 労働能力への直接的な影響は認めがたいが,対人関係や対外的な活動に消極的になるなどの形で,間接的に労働能力に影響を及ぼすおそれがある場合には,概ね100万~200万程度の額で慰謝料増額事由として考慮する。
  • 直接的にも間接的にも労働能力に影響を与えないと考えられる場合には,慰謝料も基準どおりとして増額しない。

 平成22年6月10日以降発生した事故については,自賠責の後遺障害等級認定表上,男性・女性の区別がなくなりましたが,裁判例を見ると,女性は比較的逸失利益が認められているものの,男性についてはなかなか認められていないというのが実情です。
 本件では,被害者の少年がキッズタレント・モデルの養成スクールに在籍してレッスンを受けていたことから,顔に線状痕が残ったことで今後モデル・タレントとして活躍することが困難になり,職業選択の幅が狭められたという理由で逸失利益を主張しました。
 その結果,67歳まで労働能力喪失率5%で計算した逸失利益が認められました。

所感(担当弁護士より)

 事故当時学生であった男性について9級16号が認定された事案において,67歳まで労働能力喪失率9%の逸失利益が認められた福岡高判平成30年12月19日自保ジャーナル2041号24頁などの裁判例もあり,より高額の逸失利益の獲得を目指して訴訟で争う方法もありました。
 しかしながら,本件の訴訟の見通しについては,事故状況に照らすと依頼者30:相手方70の過失割合よりも不利な認定を受ける可能性が相当程度あったほか,自賠責の手続で9級16号が認定されたものの,実際には近くで見ないとわかりにくい程度の傷でしたので,逸失利益が否定されるリスクもありました。
 訴訟で理想的な成果が得られた場合に比べれば,5%の労働能力喪失率の認定は高いものとはいえませんが,リスクを考慮しますと,ある程度の逸失利益を確保して示談で解決する方が得策といえる事案だったと思います。

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