異議申立が認められ,併合12級から併合9級へ昇級するとともに,支払額が3.8倍となる約885万円の増額に成功した事例

60代男性 / 会社役員
後遺障害等級
併合9級
傷病名
左足関節周囲骨折,左母趾・第2足趾中足骨骨折,左第3・4・5趾中足骨開放骨折,左母趾基節骨骨折
保険会社提示額
315 万円
最終獲得額
1200万円

事例のポイント

60代男性 / 会社役員

異議申立が認められ,併合12級から併合9級へ昇級するとともに,支払額が3.8倍となる約885万円の増額に成功

  保険会社提示金額 増額 弁護士交渉後
入通院慰謝料 185 万円 1.0 倍 185 万円
休業損害 96 万円 1.7 倍 164 万円
後遺障害慰謝料 232 万円 3.0 690 万円
後遺障害逸失利益 128 万円 5.6 718 万円
治療費など 182 万円 1.0 倍 183 万円
装具代 5 万円 11.2 56 万円
付添看護費 0 万円 7 万円
過失相殺 -207 万円   -503 万円
既払金 -306 万円   -306 万円
支払額 315 万円 3.8 倍 1,200 万円

取得金額

1200万円

受傷部位

後遺障害等級

併合9級

当方:25 相手:75 道路:歩道の外側

態様:夜間に歩道の外側を歩行中,後方から走行してきた車両が衝突

担当弁護士の解説

【はじめに】

本件は,弁護士介入後に保険会社の初回提示があった事案です。

【異議申立】

1 検査漏れによる再検査について

 最初に主治医が作成した後遺障害診断書では,左足関節と左足親指の可動域制限のみの検査が行われていました。

 当職が後遺障害診断書をもとに被害者に詳細な内容確認を行ったところ,左足親指以外の足指の可動域制限についての検査漏れが発覚し,当職の指示により再検査が行われました。

 もし弁護士に依頼せずに被害者自身で手続きを進めていれば,検査漏れに気づかず,左足関節疼痛等の神経症状による14級9号しか認定されなかった可能性もあったと思われます(左足親指の可動域制限については,最初の認定で否定されています)。

 

2 異議申立による昇級について

(異議申立前)

併合12級

内訳

12級11号 1足の第1の足指の他の4の足指の用を廃したもの

14級9号  局部に神経症状を残すもの(右足関節疼痛等)

(異議申立後)

併合9級

内訳

9級15号 1足の足指の全部の用を廃したもの

12級13号 左足第1,2,3指の知覚異常は局部に頑固な神経症状を残すもの

14級9号 左足関節疼痛等は局部に神経症状を残すもの

 

 本件の後遺障害の等級認定においては,左足親指の可動域制限について,自動値では基準を満たさないが,他動値では基準を満たしていることから,可動域制限による後遺障害が認定されるかどうかが問題となりました。

 労災基準では,「他動運動による測定値を採用することが適切でないものとは,例えば,末梢神経損傷を原因として関節を可動させる筋が弛緩性の麻痺となり,他動では関節が可動するが,自動では可動できない場合,関節を可動させるとがまんできない程度の痛みが生じるために自動では可動できないと医学的に判断される場合等をいう」とされています。

 はじめの認定結果では,「神経麻痺等の所見に乏しいことから他動値により等級評価をおこなう」と指摘があり,左足親指の可動域制限の後遺障害は認定されませんでした。 そこで,主治医に新たに作成していただいた左足第1,2,3指の知覚異常がある旨の診断書を添付して異議申立を行ったところ,左足親指の可動域制限の後遺障害が認定されました。 その結果,「1足の足指の全部の用を廃したもの」として9級15号が認定され,その他の神経症状に関する後遺障害と併合して併合9級が認定されました。

【法律上の争点】

1 基礎収入について

 被害者の事故前年度所得が180万円であったことから,保険会社は当該金額を基礎収入として,休業損害や逸失利益の算定を行ってきました。

 これに対し,事故当年の7月に役員報酬を月20万円に改定していることに着目し,事故後は月額20万円で計算した年240万円の収入を得られる蓋然性があったこと,被害者が法人の代表者であり,名目上は役員報酬として会社から金銭を受け取っているものの,会社が被害者とその妻のみで構成される実質的に個人事業主と変わらない零細企業であり,被害者が事故により休業したことで会社の営業も停止していることを鑑み,その役員報酬の100%が労働対価部分に該当すると主張したところ,当職の主張が認められました。

2 労働能力喪失年数について

 上記基礎収入の算定の問題に加え,保険会社は67歳までの6年間しか労働能力喪失期間を認めていませんでした。

 これに対し,被害者が実質的には個人事業主であって定年などの影響を受ける立場になく,67歳以降も就労可能性があり,赤い本の基準の通り,労働能力喪失期間を平均余命の1/2として逸失利益を算定すべきであることを主張したところ,平均余命の1/2の11.435年が労働能力喪失年数として認められました。

3 装具買換費用について

 保険会社は,最初に購入した装具費用のみを損害として認めていました。

 これに対し,当職がメーカーに照会して各装具の耐用年数を確認し,回答が得られなかったものについても厚生労働省の補装具種目一覧表を参照して装具買換費用を算定して請求したところ,当職の主張が認められました。

 装具買換費用は買換時期ごとに中間利息を控除して計算する必要があり,本件の計算を一つ例にあげますと,以下の通りとなります。

(計算例)

1回につき34,950円,平均余命22.71にわたり,1.5ごとに15回交換が必要な場合,1.5年ごとに34,950円の損害が生ずるものとして,年5%の中間利息をライプニッツ式によって控除します。

34,950×(1(0年目)+0.9294(1.5年目)+0.8638(3年目)+0.8028(4.5年目)+0.7462(6年目)+0.6935(7.5年目)+0.6446(9年目)+0.5991(10.5年目)+0.5568(12年目)+0.5175(13.5年目)+0.481(15年目)+0.447(16.5年目)+0.4155(18年目)+0.3861(19.5年目)+0.3589(21年目)+0.3336(22.5年目))=341,664

【まとめ】

 弁護士が異議申立を行った結果,併合12級から併合9級へ昇級いたしました。

 さらに,適切な基礎収入の主張や労働能力喪失年数の主張,装具買換費用の請求などを行った結果,支払額が3.8倍となる約885万円の増額に成功いたしました。

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