事例のポイント
40代男性 / 自営業
依頼者の事故前年度申告所得や,それ以前の年の申告所得も200万円程度と極めて低額で推移している一方,事故当年は事故までのわずか4ヶ月の間に事故前年と同等の収入を得ていた事例
入通院慰謝料 | 273 万円 |
休業損害 | 860 万円 |
後遺障害慰謝料 | 1,000 万円 |
後遺障害逸失利益 | 2,549 万円 |
治療費など | 1,685 万円 |
既払金 | -2,713 万円 |
訴訟費用相当額 | 546 万円 |
支払額 | 4,200 万円 |
取得金額
4200万円
受傷部位
足
後遺障害等級
併合7級(8級7号,10級11号,14級9号)
当方:0 相手:100
担当弁護士の解説
【本件の留意点】
本件は,事故後間もない時期から弁護士が介入していた事案です。 賠償金額が大きいことから,決済が通るかどうかを保険会社の担当者に何度も確認しており,口頭でのやりとりの中では示談見込み金額が変更されていますが,提示書面は話がまとまった内容での1回のみの作成となっています。
そのため,他の事例のように,交渉して初回提示後にいくら増額したかという内容にはなっておりません。
【法律上の争点】
本件では,依頼者の事故前年度申告所得や,それ以前の年の申告所得も200万円程度と極めて低額で推移している一方,事故当年は事故までのわずか4ヶ月の間に事故前年と同等の収入を得ていたという事情がありました。
このことから,事業を拡大して増収が見込まれた矢先の事故であり,事故前年度所得より多額の収入を得られた蓋然性があるとして,賃金センサスをもとに基礎収入を算定する主張が認められるかどうかが大きな争点となりました。
訴訟で事故前年度申告所得をもとに基礎収入が認定されるリスクがあることから,当職の方針で,まずは示談交渉からスタートすることとなりました。
当職は,事故当年の売上と経費から1年間の見込み所得を推定計算した上で,賃金センサスをもとにした逸失利益の請求を行いました。
その上で,保険会社から既払い金の明細の交付を受け,法定充当による遅延損害金の引き直し計算を行い,訴訟で判決を獲得した場合の試算を明示して交渉を進めました。訴訟になれば元本充当の黙示の合意が認定される可能性が高いことは頭にありましたが,ここでは,あえて交渉を有利に進める目的で法定充当による引き直し計算を行っています。
保険金が多額のため交渉が難航して半年もの長期間に及びましたが,落とし所として,日弁連交通事故相談センター「損害賠償算定基準」平成19年版下巻に掲載されている「逸失利益の算定における賃金センサス」 において紹介されている,事故前年度所得と平均賃金の乖離が大きい事例において,年齢学歴別平均賃金の60%で基礎収入が認定されている裁判例を参考に逸失利益を算定することで話がまとまりました。
裁判外の示談でしたが,遅延損害金等を加算した額から症状固定後の前払い金(本件は,生活費に充てるため,症状固定後に保険会社から慰謝料の前払いを受けていました)を控除した4,200万円の賠償を受けることで合意が成立いたしました。
【まとめ】
本件は,訴訟における遅延損害金の獲得メリットがある一方で,訴訟で事故前年度申告所得をもとに基礎収入が認定されたときのリスクが大きな事案でした。
例えば,事故前年度申告所得をもとに休業損害や逸失利益の基礎収入が認定された場合の試算は,遅延損害金及び弁護士費用相当額を含んで約2,800万円程度と,示談金額とは大きな開きがあります。
本件では,長期にわたり粘り強く交渉を行った結果,訴訟で事故前年度申告所得をもとに基礎収入が認定されるリスクを避けた上で,判決と同等の遅延損害金を獲得することができました。