交通事故で頭部が負傷した後、集中力や注意力、記憶力に支障が出ていたり、性格が変わってしまったような気がしたりするなど、家族からみて変化が感じられる場合、脳が損傷を受けたことによって生じる高次脳機能障害が起きている可能性があります。
高次脳機能障害の後遺症を後遺障害として等級認定されるにはポイントがありますが、障害についての知識や等級認定の過程に関する知識が必要です。これらは誰にでも理解できるものではありません。
交通事故に力を入れている弁護士であれば等級認定のポイントを熟知しており、適正な後遺障害の認定により最大限の示談金獲得が可能です。
ここでは高次脳機能障害とはどういったものか、そして後遺障害等級認定のポイントについて、わかりやすく解説します。
高次脳機能障害とは
交通事故で問題となる高次脳機能障害とは、事故によって脳に損傷を受けたことにより記憶力や注意力、遂行能力や社会的な行動に障害が残ることをいいます。
手足の外傷や知覚・聴覚・触覚などの感覚機能、四肢の運動機能の障害のようには目に見えず、本人の自覚症状もないことが多いので、見落とされがちな障害です。数カ月たってから家族が気付くことさえあります。
症状と具体例
記憶障害
- 事故前に覚えていた自分や家族、友人の名前は憶えているが、事故後に出会った医師や看護師の名前が覚えられない(前向性健忘)
- 事故後に出会った医師の名前は覚えることができるが、事故前に覚えていた家族の名前が思い出せない(逆行性健忘)
- さっきした散歩のことをすぐ忘れる(短期記憶障害)
- 家から駅までの道順がわからなくなる(長期記憶障害)
注意障害
- いつもうつろな表情で、反応も遅くなる(覚醒度低下)
- 一つのことに集中できない(持続力低下)
- 玄関のチャイムが鳴っても、気が付かない(転導性低下)
遂行機能障害
- ニンジンを切り始めるが、カレーを作るためという目的を設定できない(目標設定障害)
- カレーを作るためにまずニンジンを切るという順序立てができない(計画立案障害)
- カレーを作るために切る材料を順に並べるが、思いついた順に切り出す(計画実行障害)
- カレーを作るために準備していた玉ねぎが見当たらない時に、玉ねぎの投入を省略することができない(効果的・効率的行動障害)
社会的行動障害
- 何かしようとの意欲が感じられず、ずっとボーとしている(意欲・発動性低下)
- 大声を出して突然激高したり、暴力をふるったりする(情動コントロール障害)
- 特別に親密すぎる発言をする、会話の流れについていけない(対人関係障害)
- 子供っぽくなり人に依存する(依存的行動)
- 今まで気にしていなかったことに、こだわり過ぎる(固執)
高次脳機能障害で認定される後遺障害等級
後遺障害として認定される等級と、機能又は精神障害は以下の通りです。
等級 | 神経系統の機能または精神の障害 |
慰謝料(自賠責基準) カッコ内は保険金総額 |
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別表第一 |
1級1号 |
神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,常に介護を要するもの a. 食事・入浴・用便・着衣等,生命維持に必要な行動について,常時介護を要する b. 高度の痴ほうがあるため,常時監視を要する |
1600万円 (4000万円) |
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2級1号 |
神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,随時介護を要するもの a. 食事・入浴・用便・着衣等,生命維持に必要な行動について,随時介護を要する b. 著しい判断力の低下や情動不安定があるため,看視を欠かすことができない |
1163万円 (3000万円) |
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別表第二 |
3級3号 |
神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,終身労務に服することができないもの a. 生命維持に必要な行動はできるが,労務に服すことができない b. 記憶や注意力等に著しい障害があって,一般就労が全くできないか,困難である |
829万円 (2219万円) |
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5級2号 |
神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの a. 単純な繰返し作業等に限定すれば一般就労可能だが,特に軽易な労務しかできない b. 一般人に比較して作業能力が著しく制限されており,就労の維持には職場の理解と援助を欠かすことができない |
599万円 (1574万円) |
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7級4号 |
神経系統の機能又は精神に障害を残し,軽易な労務以外の労務に服することができないもの a. 特に軽易な労務等に限定すれば一般就労可能だが,軽易な労務しかできない b. 一般就労を維持できるが,作業の手順が悪い,約束を忘れる,ミスが多いなどのことから一般人と同等の作業を行うことができない |
409万円 (1051万円) |
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9級10号 |
神経系統の機能又は精神に障害を残し,服することができる労務が相当な程度に制限されるもの a. 通常の労務はできるが,就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限される b. 一般就労を維持できるが,問題解決能力などに障害が残り,作業効率や作業持続力などに問題がある |
245万円(616万円) |
参考:自賠責施行令「高次脳機能障害の後遺障害等級」より
後遺障害等級認定を受けるポイント
以下のポイントに一貫性がなければなりません。
初期の診断
高次脳機能障害が後遺障害として等級認定されるには、交通事故による頭部外傷がきっかけといえる初期診断が必要です。
初期の意識喪失
事故直後に意識喪失がなければ、交通事故による脳の損傷との因果関係が否定される可能性が出てきます。
初期の画像所見
初期段階での脳のMRIやCT画像での所見がなければ、脳の損傷との因果関係を証明しにくくなります。
家族や介護者による日常生活の支障記録
家族等による日常生活における支障の記録があれば、等級認定に際し有力な資料として評価されます。
まとめ
高次脳機能障害は知識がなければ気付きにくく、等級を認定するときになって気づいてからでは対策が手遅れであることが多くなっています。
交通事故に力を入れている弁護士であれば、認定のポイントを踏まえたアドバイスと事故対応で適切な等級認定と示談金獲得が可能です。
被害者の方の行動に少しでもお気づきの点があれば、お気軽にご相談ください。