死亡定額給付金1000万円の受領が,死亡慰謝料の認定で斟酌された事例

大阪地判平成29年7月27日交通事故民事裁判例集 50巻4号980頁

争点

 通所介護サービスの送迎車に乗車していた高齢者が,送迎車の単独事故により死亡した事案において,被告会社が契約者となっている人身傷害死亡・後遺障害定額給付金特約にもとづき,原告らに死亡定額給付金1000万円が支払われていたことを,死亡慰謝料の算定においてどのように考慮すべきかが問題となりました。

判決文抜粋


3  争点及びこれに関する当事者の主張の要旨

(原告らの主張)

  カ 死亡慰謝料 2000万円


   (2) 原告ら固有の損害
 慰謝料各400万円
 原告らは,最愛の母である亡Bを本件事故で亡くし,深い悲しみを味わった。原告らは,本件事故直後,亡Bの痛ましい遺体や被告車両の損壊状況,本件事故の現場の状況等を目の当たりにし,更には亡Bの遺体につき司法解剖まで行われることになり,亡Bの命を奪った被告Y1に深い憤りを感じた。被告Y1からは,事故状況の詳細や今後の対応について,刑事公判を通じても十分な説明がなかった。
 これらの事情に鑑みると,原告らの被った精神的苦痛は計り知れず,原告らの固有の慰謝料として1人当たり400万円が認められるべきである。

 (被告らの主張)

 (1) 亡Bに生じた損害

   カ 死亡慰謝料
 争う。原告らの主張する金額は高額に過ぎる。人身傷害死亡・後遺障害定額給付金特約に基づく死亡定額給付金1000万円が,平成29年5月1日,原告らに支払われた。これは,被告会社が保険料を負担して原告らに対して手厚い賠償がされることを示すもので,慰謝料算定において考慮されるべきである。

  (2) 原告ら固有の損害
 争う。上記(1)カと同様である。

第3 当裁判所の判断

    (6)  死亡慰謝料 1800万円
 亡Bの年齢,家族内での立場,突然の事故により重傷を負い,本件事故後僅か約1時間でかけがえのない生命を奪われた無念さ,被告会社が契約者となっている人身傷害死亡・後遺障害定額給付金特約に基づく死亡定額給付金1000万円が原告らに支払われたことなど,本件にあらわれた一切の事情を考慮し,1800万円を認めるのが相当である。

 2  原告ら固有の損害
 慰謝料 各100万円
 原告らは,本件事故により,最愛の家族を突然失ったことによる深い悲しみ,喪失感等を覚えたことが認められ,本件にあらわれた一切の事情を考慮し,固有の慰謝料として各原告について100万円を認めるのが相当である。


解説

1 事案の概要 

 本件は,通所介護サービスの利用者であった88歳の女性が,送迎車に乗車中,送迎車が電柱に衝突した事故により死亡した事案です。

 送迎車の運転者は,介護事業者の業務として,通所介護サービスの利用者を自宅へ送るため,車両を運転していました。

 運転者は,交差点を進行中,右方道路から進出してきた猫を避けようとしてハンドル操作を誤り,車両を電柱に衝突させました。

 被害者は,この事故により,肝臓破裂,心臓挫傷,肋骨多発骨折等の傷害を負い,事故当日に死亡しました。

 被害者の子2名は,運転者及び介護事業者に対し,損害賠償を請求しました。

2 死亡定額給付金1000万円の支払

 本件では,被告会社が契約者となっている人身傷害死亡・後遺障害定額給付金特約にもとづき,原告らに死亡定額給付金1000万円が支払われていました。

 被告らは,この死亡定額給付金1000万円について,被告会社が保険料を負担して原告らに対して手厚い賠償がされることを示すものであり,慰謝料算定において考慮されるべきであると主張しました。

 判決は,死亡慰謝料の認定にあたり,この死亡定額給付金1000万円が支払われたことを考慮事情の一つとして挙げています。

3 裁判所の判断

 裁判所は,死亡慰謝料について,被害者の年齢,家族内での立場,突然の事故により重傷を負い,事故後わずか約1時間で生命を奪われた無念さなどを考慮しました。

 そのうえで,介護事業者が契約者となっている人身傷害死亡・後遺障害定額給付金特約にもとづく死亡定額給付金1000万円が,被害者の子らに支払われたことも考慮し,死亡慰謝料を1800万円と認定しました。

 また,被害者の子ら固有の慰謝料については,各100万円を認めました。

 したがって,本判決における慰謝料総額は,

 死亡慰謝料1800万円+被害者の子ら固有の慰謝料200万円=2000万円

 となります。

4 搭乗者傷害保険金との関係

 定額給付型の保険金としては,従前から搭乗者傷害保険金が問題とされてきました。

 最二小判平成7年1月30日民集49巻1号211頁は,搭乗者傷害保険金について,損害の填補を目的とするものではないとして,損益相殺として損害額から控除することを否定しています。

 もっとも,加害者側が保険料を負担していた場合には,慰謝料算定において考慮されることがあります。

 東京高判平成7年4月12日判例タイムズ884号211頁は,搭乗者傷害保険金1000万円が支払われていた事案で,搭乗者傷害保険金を損害賠償額から控除することはできないとしつつ,加害者側が保険料を負担していた場合には,慰謝料算定で斟酌するのが相当であると判断しました。

 そして,原審が1800万円とした死亡慰謝料を1500万円と認定しており,搭乗者傷害保険金1000万円のうち約300万円,すなわち30%程度を慰謝料算定上考慮したものと見ることができます。

 当事務所の交通事故Q&Aでも,この裁判例を踏まえ,搭乗者傷害保険金は損益相殺の対象とはならないものの,慰謝料で斟酌される可能性があることを解説しています。

5 死亡定額給付金と搭乗者傷害保険金の違い

 人身傷害死亡・後遺障害定額給付金特約は,保険商品としては,人身傷害保険に付帯する特約です。

 この点で,人身傷害死亡・後遺障害定額給付金特約は,人身傷害保険とは別枠で付帯される搭乗者傷害保険とは,商品上の位置づけが異なります。

 通常の人身傷害保険金は,逸失利益,治療費,休業損害,慰謝料などの実損害を積み上げ,保険金額を限度として支払われる実損填補型の保険金です。

 これに対し,人身傷害死亡・後遺障害定額給付金は,人身傷害保険の支払対象となる事故により死亡又は一定の後遺障害が生じた場合に,あらかじめ定められた金額を支払う定額給付型の保険金です。

 つまり,人身傷害死亡・後遺障害定額給付金は,商品上は人身傷害保険に付帯する特約であるものの,通常の人身傷害保険金のように実損害を填補するものではありません。

 この点では,死亡又は後遺障害の発生により,あらかじめ定められた保険金が支払われる搭乗者傷害保険金と共通する性質を有します。

 したがって,人身傷害死亡・後遺障害定額給付金は,商品分類としては搭乗者傷害保険金と異なりますが,損害賠償上の評価としては,搭乗者傷害保険金に近い性質を有するものと考えられます。

6 死亡定額給付金の斟酌幅

 本判決では,死亡定額給付金1000万円が慰謝料算定で考慮されています。

 もっとも,本判決は,死亡定額給付金が支払われていなかった場合に,死亡慰謝料及び原告ら固有の慰謝料がいくらになったのかを明示していません。

 そのため,東京高判平成7年4月12日のように,保険金額の何%相当が減額事情として考慮されたのかを,判決文から読み取ることはできません。

 参考資料として,「裁判例における死亡・後遺症慰謝料の認定水準」の分布図(『民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準』2016年下巻99~100頁)からは,高齢者の死亡慰謝料は概ね2000万円から2200万円程度で認定されていることを読み取ることができます。

 本判決では,死亡慰謝料1800万円,原告ら固有の慰謝料各100万円,合計2000万円の慰謝料が認定されています。

 このような相場と本判決の認定額を比較すると,本判決では,死亡定額給付金1000万円について,慰謝料算定上20%程度が考慮されたと推測する余地があります。

 本判決は,死亡定額給付金が支払われていなかった場合の慰謝料額を明示しておらず,具体的な斟酌割合を正確に読み取ることはできませんが,少なくとも,死亡定額給付金1000万円全額を慰謝料額から減額した事案ではありません。

7 本判決の意義

 本判決は,人身傷害死亡・後遺障害定額給付金特約にもとづく死亡定額給付金について,慰謝料算定で考慮した裁判例です。

 搭乗者傷害保険金については,最二小判平成7年1月30日民集49巻1号211頁により,損益相殺としての控除が否定されています。

 他方で,東京高判平成7年4月12日判例タイムズ884号211頁のように,加害者側が保険料を負担していた搭乗者傷害保険金について,慰謝料算定で減額事情として考慮した裁判例があります。

 人身傷害死亡・後遺障害定額給付金は,商品上は人身傷害保険に付帯する特約です。

 しかし,通常の人身傷害保険金とは異なり,実損害を填補するものではなく,死亡又は一定の後遺障害が生じた場合に,あらかじめ定められた金額を支払う定額給付型の保険金です。

 そのため,定額給付型の保険金であるという点では,搭乗者傷害保険金に近い性質を有します。

 本判決は,搭乗者傷害保険金と同様に,死亡定額給付金についても,慰謝料算定上の一事情として考慮された先例として,参考になると考えられます。

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